彼は、かつて気が遠くなるほど昔には、元居た自らが生まれた世界を守っていた。六人の仲間達と、彼らが主人である王を守っていた。
その当時の日本は王国だった。超越者たるオーヴァードによる戦乱の時代に、彼は同じく超人の力を持った仲間達と共に祖国を守る為に戦い抜いた。しかし、それも長くは続かない。
侵略者が現れた。全てを蹂躙し、我が物と成そうとする強欲なジャーム、それは余りに強大過ぎたが故に、世界を食らい、やがては御剣達が守る日本へ侵略する事になった。一人、また一人仲間達はその敵の前に倒れ行く。
最後には王すらも前線へ出て、相打ちになる事となった。それが起こる日の晩の事。
「そうか。もはや残ったのは君一人か。」
『どうかお止めください、王よ。貴方まで失っては、この国は…』
「もはや私一人生き残ってもどうにもなるまい。国は民あっての物。民を失った私がこの玉座に居座り続ける事は出来ない。」
『しかし...それでは彼らの想いはどうなるのですか!?皆は貴方に全てを託して...逝ったのですよ...』
「そうか...ならば、こうしよう。あの証を貸してくれ。」
『？はい...』かつて仲間達と共に、国を、王を守ると誓ったペンダントに、王が願いを込めた。
その願いの力は、世界を渡る力。御剣の祈りに呼応して、彼をあらゆる概念から解放して旅立たせる。
「この力を使って、あらゆる世界の我が国を守ってくれ。君に下す最後の命令だ。」
『王よ...貴方はどうなるのですか...？』
「この国の存在した証だけでも残そう...後は、万事よろしく頼むぞ。」
『ッ...畏まり...ました...』
察してしまった。王に生きる意志は無い事を。
只、この国があった証拠を少しでも残すために、その力の全てを注ごうとしていることを。
「今まで...大儀であった。最期くらいは主人らしく言えたかな？」
『...元より、ずっと貴方は僕達の王でした。』
「それは嬉しかったな...では、さらばだ。なるべく遅くにこっちに来るんだぞ。」
『はい...必ずや。』
最早最後に残った主すら守れず、一人。彼は長い、長い旅へ出ることになる。
涙を流しても、喚いても、彼らは戻って来なかった。それでもジャーム化せずに済んだのは、王の最後の願い故だろう。