元ネタとなった由来は特にない。彼の主な能力が、砂塵を金や結晶の粒に変異させつつ操る能力に特化していること、
また彼の任務遂行態度がどこか黄昏れている様子を見せることもあり、
黄昏の雹雨(たそがれのひょうう)……ゴールド・レインとなった。これは“おじさん”――相伊庭 明彦の命名であり、
辰美自身もそれを受け入れている。

大学生としては平均的な身長だが、UGNエージェントとして鍛錬を積んでいるため筋肉質であり、
体重もそれに合わせて若干重くなっている。眼鏡は現在外しているようだ。
あまり見た目に気を払わないためか前髪は伸び気味で、だいたい頭頂の髪の毛が飛び出している（いわゆるアホ毛）。
顔付きに関しては純粋培養のチルドレンらしい顔付き。わざわざ醜男に設計されるデザイナーベイビーは少ない。

UGN支部で生まれ育ったチルドレンの多くがそうであるように、
元々は無感動・無感情・無表情の3拍子揃った戦闘マシンのような性格であった。
しかし親代わりのエージェント、歳の近い教官、潜入した学校での生活を通し、昔と比べてかなり感情豊かになった。
ただ元々の性格がそうなのか、普段は大人しく若干皮肉屋なところが見受けられる。
また親代わりである同居人(ダメ人間)の影響か、家事全般と毒舌に関しては人並み以上である。

「大学生活はともかく、支部長としての仕事の方が堪えますね……。」
――霧谷支部長から、大学生活はどうかと聞かれて

「……父さん、次サボったら四つ折りにしてタンスに仕舞うって言ったのは覚えてるかい？」
――大学から帰宅後、家事もせずに飲んだくれる同居人を見て

「いや別に……椿教官からは、そろそろ一教官として独り立ちしていい頃だって言われてる。」
――夕飯の後、椿とは上手くいっているのかと同居人に茶化されて

「それじゃ行ってきます、椿さん。向こうに着いたらまた連絡します。」
――支部長赴任当日、玉野 椿に見送られながら

彼は元UGNチルドレンだ。だが彼の人生は、華々しい戦績に彩られていたわけではない。
幼き日より純血種としての活躍を期待されていた辰美はその実、能力に完全な欠落が見られたのだ。
モルフェウスでありながら、自身で武器を精製することができない。
できることと言えば、物質の簡易的な圧縮や“折り畳み”程度であった。
これはUGN職員達が、彼に失敗作の烙印を押すのには充分な理由であった。

それから何年かの期間彼に与えられた苦痛について、ここで語るのは止めておこう。
転機が訪れたのは今から5年ほど前のこと。同じように落伍者の烙印を押された、
ある一人の男の元へと身柄を丸投げされてからだった。
当初――最初の丸1年ほどは、お互いに面倒臭いと思いながらも、仮の親子として渋々任務に当たっていた。
しかしその後、年若い教官の仲立ちや月日の経過による同居人への態度の軟化から、2人に自身の能力に対する悩みを打ち明け、
彼は最終的に2つの特性に気付いた。

その1.砂塵の生成と変異に特化した能力。
彼はモルフェウスの中でも、複雑な機構を有する武器群ではなくもっと根源的な能力――砂の扱いに特化していた。
それは彼の手によって砂金になり、水晶のつぶてとなり、どのような金属物よりも強固な弾丸となる。

その2.狙撃に関する能力。
これはオーヴァードとほとんど関係ない能力であったために見逃されていたものだが、
彼はそのエイム力に関して、非凡と言っていいほどの才能に恵まれていた。

そもそもが銃を創ることすらできないモルフェウスに狙撃作戦を任せるなど、彼の力を知らぬ多くの者は
「オーヴァードである必要性がない」と一笑に付した。
しかし現在の彼は、その類まれな狙撃センスと状況ごとの最も適した弾丸の生成によって
数多くの任務をこなし、モルフェウスとしてある意味での高みへ昇りつつある。

彼のオーヴァードとしての力を確かなものとして認識した霧谷支部長は、玉野椿の推薦もあり
相伊庭 辰美を小都市の支部長に任命することを決めた。
斯くして彼は、新米の支部長として、また教官として、某市へ赴任することとなったのである。