アマネ＝ハグロというレネゲイドビーイングは元々、FHの研究施設で人工的に生み出された名もなき『実験体』だった。
植物の成長・再生能力に着目した研究者が、様々な植物サンプルを用いて実験を行い、その中で生み出された1体に過ぎない。
しかし、UGNによってその研究施設が襲撃された際、激しい交戦の余波によってほとんどの研究成果は破壊されてしまった。
この『実験体』も例外ではなく、再生不可なレベルの損傷を負ったことで個体としての意識は霧散しかけていた。
（消えたくない）
じわじわと自身の最期が迫り、本能的に生を求めていた『実験体』は、近くに何かがいることに気付く。
それは1人の少女―――UGNエージェント「羽黒天音（はぐろあまね）」だった。
彼女もまた深い傷を負い、その出血の量からもう助からないことは明白であったが、それでも彼女は縋るように手を伸ばす。
彼女が意図してそうしていたのかは定かではないが、伸ばした手は間違いなく『実験体』の方に向けられていた。

死傷者多数―――作戦の報告を受けたUGNの後処理班が研究施設に派遣された。
破壊しつくされた施設内の部屋を1つ1つ確認しては奥に進んでいくと、ある部屋に1人の少女が佇んでいた。
エージェントの呼びかけに、少女はゆっくりと振り返る―――ライトに照らされたその姿は、人間というには異質であった。
脇腹に空いた穴の内側は無数の繊維で埋め尽くされ、銃とそれを握る右手は枝のようなもので繋がっている。
しかし、その顔は間違いなく死亡リストに載っていた少女『羽黒天音』その人であった。
警戒を強めるエージェントの前で、ソレは何かを呟くとその場に倒れ伏した。
―――その後UGNにて確保され、綿密な調査・観察が行われたうえで現在に至る。