このような能力が発現したのにはいくつかの理由がある。
　一つ目は、幼少期に父親から聞いた彼の『正義』。それは、「誰も傷つかない」事だった。彼の【｜願い《正義》】を背負うため、攻撃的なエフェクトは発現していない
　二つ目は、FHの施設に幽閉されていた際に、親友が殺されるのを「止められなかった」事だった。施設には多数の子供たちが幽閉されていたが、物資は少なく、次第に飢えが深刻化していき、それを仲間内だけでも防ぐために、『派閥』出来ていった。
派閥間の争いは過激化していく一方で、命と親友は所謂『穏健派』の派閥に所属していた。
しかし、とある日、二人は過激派の罠にはめられてしまう。親友は体を張って命を逃がした。
逃げる中、親友が嬲られ、無残に殺される音を。一生消えてくれない死に際の悲鳴を。聞き続けていた。
彼女が最期に残した、「生きて」という【｜願い《呪い》】と、親友を守れずに、逃げてしまったときに得た【｜願い《トラウマ》】が、敵を妨害するエフェクトを発現させた。
　三つ目は、父親の「死」であった。FHの施設から命からがら逃げだし、家に帰ったその時、眼前には物言わぬ｜オブジェ《死体》となった父親と、逃げた命を先回りし、父親を殺した伊庭宗一があった。
その時に発露した強い【｜願い《殺意》】と、黑く煮えたぎる【｜願い《狂気》】が、自らの危険すらをも顧みない、危ういエフェクトを発現させるに至った。
　かくして、一人の子供は、一人前の【｜エージェント《猟犬》】へと姿を変えたのだ。