8年前の『港湾事変』の現場に、朝比奈家と鈴鹿家は家族同士で旅行に来ていた。
そして、全員で巻き込まれてしまった。
幸いにも鈴鹿家は全員無事であったが、朝比奈家の両親は事件に巻き込まれ死亡してしまった。
阿鼻叫喚の事件現場、逃げ惑う人々、血を流し倒れている朝比奈夫婦、涙を流しながら必死に両親をゆする瑞樹。
この地獄には、笑顔はなかった。
キアラがそう気が付いたとき、彼女の右手に光が集まった。

「やめて、みんなの笑顔をうばわないで！」

その光は地獄を塗りつぶすように照らし、周辺の敵を打ち払ったという。
間もなくキアラと瑞樹は気を失った。

その後、キアラはUGNにスカウトされ、監視を兼ねたサポートをUGNから受けることになる。
自身が得た力が、まさに皆を笑顔にする力だと確信したキアラは、FHから皆を守るため、喜んで世界の裏側に飛び込んだ。
そして、UGNの協力者となる見返りとして、一つの情報が提示された。

それは、『朝比奈瑞樹がオーヴァードである疑いがある』という情報である。

世界の裏側の内情を知るたびに、キアラは瑞樹をこの世界から遠ざけることを強く望んだ。
それに、瑞樹は事件以降、笑顔を無くし、塞ぎ込むようになってしまった。
瑞樹の笑顔が無くなることは、キアラにとって他の何よりも耐え難いことだっだ。

瑞樹から笑顔を取り戻し、瑞樹を世界の裏側から遠ざける。
キアラは固くそう誓い、戦いに身を投じるようになった。

朝比奈瑞樹は立ち直り、笑うようになった。
彼女の両親こそいなくなってしまったが、世話好きの鈴鹿の両親が受け入れてくれたおかげで、瑞樹は鈴鹿家と家族ぐるみの付き合いをしている。
キアラと妹のソラが芝居がかったような掛け合いをし、瑞樹やクラスメイトが笑う。
そうやって、彼女たちは笑い合いながら過ごしていた。

だが、光の眩しさの裏に隠れた影は、いまだ消え去っていない。

瑞樹がオーヴァードである疑いがある。

キアラでさえ忘れていたその事実は、少しずつ現実を蝕んでいた。

キアラは、普段《光の銃》を使用するとき、七色に輝く【弓】を作り出す。
そして、そこから七色の軌跡を帯びた矢を打ち出し、その矢は板〇サーカスのごとく無軌道に派手に飛び回り、敵に向かって飛んでいく。

しかし、キアラが怒りに震えているときや、敵が許しがたい外道であるときに作り出されるものは【弓】ではなく、【拳銃】である。
その形状も、特に派手に光っているわけでもなく、ただ冷たい印象を受ける、真に敵を殺すための武器である。
その銃から撃ちだされる弾丸も、一切の遊び心のない、一色の光の軌跡を帯びた弾丸である。