ヴァイクはイタリア北東の湾岸都市、ヴェネツィアを出身とする。
成人して間もなくUGNとFHの抗争に巻き込まれた彼は、傷つきながらもオーヴァードとして目覚め、裏切りの世界に脚を踏み込れた。
しかし、UGNのエージェントとして活動を開始した彼の人生は、比較的順風満帆なものであった。
それはオーヴァードとしての才覚やヴァイク自身の不義に立ち向かうことを恐れない性格もあってのことだが、
何より―――オーヴァードに目覚めた彼の身を案じ、常に傍に寄り添い、任務だけでなくプライベートも気にかけてくれる少女…
"指巫女"のコードネームを持つエージェントと出会えたのだから。

"指巫女"はサラマンダー/ソラリスのオーヴァードであり、単純明快な戦闘スタイルのヴァイクを火の癒しと加護で支援し続けた。
ヴァイクは肩を並べて歩む"指巫女"に自然と心を許し、"指巫女"もまたヴァイクに尽くした。
そして、2人が恋に落ち、互いに運命を感じ合うのにも、そう時間はかからなかったのである。

ある時ヴァイクは、"指巫女"と共に死地へと出向いた。
FHが台頭するイタリアでは、UGNを取りまく情勢は日に日に悪化を辿っている。
その劣勢を打破すべく、UGNはFHの合同訓練中に大規模な強襲作戦を仕掛けたのである。
が、しかし―――不意をうっても力及ばず、作戦に参加したエージェントは次々と倒れていった。

それでもヴァイクと指巫女は抗い続けた。
１人でも多くの敵を倒し、少しでも敵の中心部へと突き進み、倒された同胞たちに報いていった。
そして作戦終盤。FHのエージェントが外部からも集結しヴァイクと指巫女を取り囲むが、ここで指巫女がひとつの提案をする。
サラマンダーである自分のレネゲイドを暴走させ、大規模な爆発を起こし、敵を一網打尽にしようというのだ。

それは極めて合理的な作戦であった。
このまま藻搔いても２人はただ死を待つだけ。ならば、少しでも敵に多くの打撃を与えるべき。
爆風に紛れてヴァイクは生き延びることもできるだろう。ただ、"指巫女"が犠牲となるだけ―――

が、しかし。作戦を決行しようとする寸前、ヴァイクの目の前にUGNでもFHでもない、正体不明の男が現れた。
男は語った。
―――あなたは犠牲にしようとしています。と。
―――哀れな小娘を、火の釜にくべようとしています。と。
たとえ彼女が望んだとしても、小娘の犠牲なしには、自らの道も行けぬ―――それで良いのですか？と。

男は提示した。
彼が信ずる神、"三本指"に身を委ねよと。
"三本指"はヴァイクの躯を憑代として現代に降り立ち、ヴァイクと指巫女の前に立ちはだかるもの全てを滅してくれるだろうと。
その場合、ヴァイクの意識は"三本指"に喰い潰されて、実質の死を迎えるであろう。
しかし、その道を選べば指巫女を犠牲にする必要はなくなる。

ヴァイクは迷わなかった。
自分の身を神に捧げてでも、愛する女を守れるならそれでもいい―――
男から教えられた通りの所作で祈りを捧げ、"三本指"を顕現させ。その身を抱かれた。



―――しかし、ヴァイクは"三本指"にとって憑代たり得なかった。



"三本指"は抱擁したヴァイクの身を焦がし尽くし、無造作に放り捨てた。
皮膚が爛れた。内臓が溶けた。眼球は剥けた葡萄のようになった。
そして"指巫女"もまた、朽ちたヴァイクの姿を見て狂乱し、力を発揮出来なくなり、やがてFHに取り囲まれ犬死した。



全てを失いながらも、見苦しく生き延びたヴァイクは、見かねたセレイ・アーセルリットに拾われた。
ドロドロになった眼球に"朱き瞳"の力を宿されることで、なんとか視覚を取り戻すに至る。
しかし、"三本指"に焼き焦がされた神経は治らず、今もなお気が狂うほどの目の痛みに苛まれている。