一般家庭の生まれであり、両親も健在。
特筆する部分もない平均的な学生生活を送っていた七年ほど前のある日、クラスメイトの少女を起因とするレネゲイド事件に巻き込まれて死亡。
それを契機にオーヴァードとして覚醒し、成り行きで事件を解決した後に、そのままイリーガルとして活動することになる。
それから暫くの間は順風満帆、とは言い切れないものの、自身と同様にレネゲイドの脅威に晒された者達に手を差し伸べ、救うことこそが自身の使命であると考えるようになった。

しかし、数年前に起きたある出来事が、彼の価値観を根底から揺るがす。
その事件で遭遇したのは、オーヴァードと化した幼い子供だった。
その子は、両親からの虐待により命を落とし、遺棄された際にレネゲイドにより蘇生・覚醒していた。
だが、幼さ故に力を制御することはできず、加えて非オーヴァードを無意識に巻き込み害する特性を宿していたため、UGNは苦渋の決断によりその子供の処分を決定する。

湊斗はその判断に強く反発し、子供を救おうと行動を起こす。
彼は必死に逃亡と保護を試みたが、ただ一人の力ではどうにもならず、UGNの追手に捕縛され、子供はそのまま処分されてしまう。
湊斗自身は、“リヴァイアサン”霧谷雄吾の裁定により、情状酌量の余地があるとされ、謹慎処分という形で命を繋いだ。

だが、その事件は深く彼の心に傷を残す。
自分が救えたと思っていた者達は、ただ状況や運に恵まれていただけであり、本当に救いを必要とした者を前にした時、自分は何もできなかった。───その無力を痛感させられたのである。

謹慎の最中、湊斗は自らに問い続け、やがて一つの結論に至った。
「救われない者にこそ、手を差し伸べるべきだ」と。
天国にも地獄にも行けず、行き場を失った魂を導く存在───彼は自らを『煉獄』に喩え、たとえ救いに届かなくとも、その歩みを共にし、その存在を己の中に刻むことを使命とした。

故に、｜烙印《スティグマ》。救われぬ者、報われぬ者、棄てられた者の記憶を、｜永遠《とわ》にその身に刻む者。


……救いの手を差し伸べながら、その命を使い潰すような矛盾。
それで、いい。それで、構わない。
恨むのならば、恨むがいい。憎むのならば、憎めばいい。離れてゆくのであれば、追いはしない。
お前達が、その生に意味を見出せるのであれば、俺はいくらでも悪魔になろう。