「大切なのは視座です」
「物事の捉え方次第で価値ある宝石は道端の石ころに成り下がり」
「屍肉に群がる蛆は真珠の様な輝きを放つ」
「さぁ、今こそ貴方達の眼前に掛かるヴェールを剥ぎ取り」
「真に美しきものを見出しなさい」

　Ｄ市立高校で美術教員を務める芸術家。良く言えば鬼才、悪く言えば異端。異常な美的センスの持ち主であり、その感性を画家として絵画に遺憾なく発揮している。周囲の人間とは比較的良好な関係を構築できており、教師としての彼を見ている限りには「少し変わった先生」止まりである。彼の異常性はこれまで手掛けてきた作品群から垣間見える。
　授業や気晴らしに描いた作品を除き、彼の絵のモデルは一貫している。神格「｜ヴェールを剥ぎ取るもの《ダオロス》」。普通の人間の眼と精神構造では決して捉えきる事ができない｜彼《か》の存在を、彼はキャンパスという平面の世界に描き切るという無謀に挑戦し続けた。それに２０年以上もの歳月を費やし、その間彼は途切れる事の無い情熱をキャンバスに注ぎ続けた。
　結果、彼の絵は至ってしまった。

「私は彼の神が与えて下さるという知識に興味ありません」
「私はただ、あの美しい御姿を描きたい」
「完全に、完璧に、余すところなく‥‥‥描写したい」

　天与の才とも言える彼の｜表現技法《レネゲイドコントロール》により生み出された絵画は、見た者に｜外なる神《ダオロス》の真の姿を幻視させる。描いたダオロスの似姿が真に迫っている程に幻像は実体を伴い、最終的に神体の一部をこの世に顕現させるに至る。彼がダオロスを描く行為は、他者への攻撃手段に他ならない。本人にそんなつもりが無かったとしても。
　結果、付いた通り名は｜面紗を剥ぐ画家《ダオロス・スケッチャー》。ＵＧＮ等の組織からこの力を戦力として求められる事があり、自分の作品を披露するチャンスだと積極的且つ意気揚々と協力している。
　補足として、彼が描く「超次元存在の似姿」は人間の視覚では捉えられず、無理に見ようとすると脳に異常を来し発狂してしまう。故に彼と同じ任務に参加する者は注意が必要である。ある程度は｜攻撃対象《観客》を選別できるが、自分の作品を見ようとしてくれる｜観客《自殺志願者》を拒める芸術家などいないのだ。

「個展を開くのは私が叶えたい夢の一つです」
「秦先生には『やめとけ』と言われてしまいましたが（笑）」

　今の所、彼のバロールらしいエフェクトは《ポケットディメンジョン》と《帝王の時間》の二つのみ。それらの併用により、彼は時間や他人の目を気にせず創作活動に集中できる即席のアトリエを構築できる。
　外出時は、彼が着用している衣服の隙間にポケットディメンジョンを形成し、大量の画材を持ち歩いている。いつ｜神の啓示《インスピレーション》を受信して絵を描きたくなるかが自分でも分からない以上、当然の処置である。