コードネーム：凍雨

「凍雨(フリージングレイン)が来るぞ、気を付けろ」
――最近の凍雨とくれば見境がない。一緒くたに凍らされて捌かれないよう、用心することだ。

氷を得手とするサラマンダー。
堅物。模範的なUGNエージェントと言えば恐らくそうだろう。盲目的でこそないが、UGNへの忠誠は高い。
元来から生真面目であったが、以前は今ほどの刺々しさはなく、もっと穏やかな人物であったと過去の彼を知るエージェントは述べる。
変化があったのは1年ほど前だったと言う。
曰く、ある日を境にまるで別人のように冷たい男になってしまったと。

経歴

小夜啼鳥(ナハティガル)孤児院の出身。当初は隠匿されており本人は知らなかったが、オーヴァードの関係した事件で両親を失い、院に保護された。真相を知ったのはUGNに所属してからだった。
同じ院で育った天白イカル(あましろ　-　)とは兄弟、或いはそれ以上の強い繋がりを持ち、半身とも言える存在だった。
日々を共に過ごし、共に学び、いつからか持ち得ていたオーヴァードとしての力を見出され、共にエージェントとなる。
UGNに所属後も、その隣には常にと言っていい程イカルがいた。半身とも言える相手だ。戦場で息が合うのも当然の事だった。
エージェントとしての活動にも慣れた頃、同期のエージェントであった神喰ノスリ(かみじき　-　)が2人と行動を共にする様になった。
ノスリもまた同じ院で育った孤児だった。院内ではそれほど親しい間柄でもなかったが、同じ出身同士ということで一度組んでみてはどうかと上からの指示があったらしい。
実際、相性は良好だった。イスカとイカルでは足りない部分をノスリは的確に補って見せた。
以降3人で過ごす事が日常となっていった。
イカルさえいれば良いと狭い交友関係で過ごしていたイスカにとって、ノスリという新しい人間との交流は良い刺激となった。
2人では知り得なかった様々なこと、他愛のない会話、時にふざけあうことすら心地よくて。
ああ、この3人で共にいられるなら、エージェントとしての苦難も、オーヴァードとしての苦悩もどうということない。
そう思っていた。

喪失

その日は突然に訪れた。前触れなどもなく、ただ突然に。
ノスリが裏切った――そう報告を受けたのは、見る影もない消し炭と化したイカルの側で茫然としていた時だった。
イカルを焼殺し、他数名のエージェントも同じ様に燃やし尽くし、FHへと寝返ったのだと。
何故イカルを手に掛けたのか、何故裏切ったのか。既にその場から姿を消していたノスリは何も教えてくれない。
何一つ分からぬまま、冬麻イスカは己にとって大切だったものを二つも同時に失った。

関連人物

天白イカル

同じ孤児院で兄弟同然に育った男。同い年。親友であり相棒であり、半身と言って差し支えのない唯一無二。……だった。
前線で戦うイスカに対し、後方からの支援・遠隔攻撃を得意としていた。
どちらかというと弟気質。せっかちなイスカと比べるとややのんびりしており、よきストッパーであり相談役でもあった様子。
1年前、FHに寝返ったノスリにより焼殺。遺体の状況は酷く、同時に焼き殺された他のエージェントの死体が複数あったこともあり判別は困難を極めたが、体格、所持品、行方不明者リストからの照合によりそのうちの一つが天白イカルであると特定された。
享年23歳。

神喰ノスリ

かつて行動を共にしていたUGNエージェント。イスカと同じサラマンダーの能力を有していたが、氷をより得意とするイスカに対してノスリは炎の扱いを得手としていた。
イスカ、イカルの二人と同じ孤児院の出身だが、院で過ごしていた頃はさした接点もなく、互いに名前と顔を知っている程度の相手だった。
どちらかと言えば真面目な二人と比べ、軽妙で飄々とした男。
自身にないものを多く持つノスリに対し、イスカは友情以外に尊敬や憧れの様な感情も抱いていた。
イカルとノスリ、二人との接し方に分け隔てを作ったつもりは少しもなかったのだが、イカルとの強すぎた絆はともすれば他者の入れる余地はなく、その気はなくとも越えられない壁が出来てしまっていたことをイスカ当人はついぞ気付かないままだった。

1年前、イカル他数名のエージェントを突如として焼殺しUGNを離脱。現在はFHの傘下にて暗躍していると報告されている。
己の半身とも言えるイカルを奪い、また信頼と友情を裏切った恨みからエージェントとしての任務をこなす傍ら、イスカはノスリの行方を追い続けている。
――その行方を掴んだ暁には、必ずこの手で殺してやる。
裏切りの理由が例えいかなるものであったとしても。

カヴァー

成人して間もなく、立ち寄ったバーのマスターにここで働かないかとスカウトされる。
曰く佇まいが気に入ったのと、後は勘だというデタラメ具合だったが、孤児院外の暮らしにまだ疎かった自身にとって良い経験になると踏み承諾。
密やかに使用しているサラマンダーとしての温度調整能力のお陰か、思いがけずその腕前は評価されていく。
対人面には不足もあったが、ツンとしたところが良いなどと一部の客にはウケており、それも味と受け入れられていた。
1年前の事件以降は表情も冷たく物言いの素っ気なさも増し、酷い有様だったが、それでも尚マスターが店を追い出すことはなかった。
以前と変わらぬ態度で接し、見放さずにいてくれる彼には表現できずとも強く感謝している。イカルという最も大事なものを失った現在、イスカにとってこの場所は希少な拠り所で、か細い支えとも言える。

小夜啼鳥(ナハティガル)孤児院

院長が鳥を好んでいたのと、彼の高名な看護師に肖った名と言われている。
UGNと関与があり、オーヴァードの被害により孤児になった子供を多く収容している。
その為かは不明だが、孤児院内から度々オーヴァードが見つかりUGNへと託されるケースも多い。
それにしてもその割合が些か多いのではないか、と疑問を呈する人間もいる様だが……。

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