夜の市街地に愛車を走らす、煌めく夜景が高速で後ろに流れていく。なんとも言えない高揚感は仕事から解放された喜びかそれとも彼女たちに会える期待からか。
「あ～ようやく長期の取材が終わった…。にしても最近レネゲイド関連の事件増えすぎだろ、記事にしたくても検閲に引っかかっちまうからライターとしては勘弁してほしいんだけどな。尚ちゃんが行方不明になった例の神社にも行ってみたけど幽霊っぽいのもいなかったしなぁ、オカルト系の記事も難しそうだなこりゃ。やっぱ食レポ書くしかねーか、どうにもオーヴァードに覚醒してから妙に腹は減るから都合が良いといやそうなんだが…。」
そんなことをひとりごちりながら愛車を走らせる、目的地までもう少しだ。
「ここんところ顔出せてなかったからなぁ、尚ちゃんたちとも話てーな。なんか空飛ぶ機械を作ったとかは聞いているけど詳しい内容は聞きそびれちまったからな、そんな面白そうな事やるなら俺も混ざりたかったぜ。ああ、それに何よりも久しぶりにスミレさんのご尊顔を拝してスミレニウムを補充しないと明日から生きていけなくなっちまう！スミレさん…、貴女と同じ時代、同じ地球に生まれることができて本当に良かった…。」


龍太が「Café ＆ Bar Unstoppable」に通うようになったのは数年前。雨宿りの為に近くの店に駆け込んだのが始まりだった。
「いやー、ずいぶん急な雨だったな。傘持ってないししばらくこの店でゆっくりしてくか…。にしてもなんだこの店？ずいぶんスチームパンクな感じの趣だけども…。中々洒落てるし記事のネタにもちょうどいいな。」
「おや？このロマンがわかるとは！ぜひゆっくりしていってくれたまえよ！」
「あなたが店主さんか、その風貌で店主じゃないとか言わないよな？とりあえずこのオリジナルブレンドを一つ頼むよ。」
「うむ！スミレくーん！ブレンド一つだ！」
金髪モノクルの妙な風貌の店主こと輝尚人が店の奥に声をかける。
「はい、ブレンド一つですね。」
奥から出てきたスミレと呼ばれている女性店員を見て龍太は動けなくなった。
「素敵だ…。」
何とか発声した第一声がこれである。怪訝な表情で尚人とスミレが龍太を見ると龍太はレネゲイドが暴走しかかっていた。いわゆる衝動判定の失敗というやつである。
「なんて…、なんて素敵な方なんだ！夜の帳が下りたかのような美しい髪！！闇を照らす月のような瞳！！美しさを際立たせるかのような凛とした声！！服の着こなし、スタイル何もかもが素敵だ！！！ああ、貴女の美しさを表現するのに俺の語彙力と肺活量が足りてない！！非力な俺を許してくれ！！」
「あ、あのー、大丈夫かね君？」異様な様相の龍太に尚人が思わず声をかける。
「これが大丈夫なものか！！アレに発症した時より凄まじい衝撃が俺を駆け巡ったよ！！この素敵なお店に巡り会えた奇跡をあらゆる神に感謝してもしきれない！！」
「とりあえずこれ飲んで落ち着いてください。」スミレは特に表情を変えないままコーヒーを龍太の前に置いた。
「いただきます」
「急に落ち着くとビックリするじゃないか、君。それにしても君はさっき“アレに発症”と言っていたな？それに先ほどの様子からして君はオーヴァードだな？」
「あぁ…。素晴らしく美味しいコーヒーだ…。スミレさんが淹れてくれたという事実だけで前世今生来世で飲んだコーヒーの中で一番美味い…。」
「人の話を聞きたまえ君！！」
「あー…。もしかしてあなたたちも…？もしかしてここ、支部かセルのカヴァーのお店だった感じ？」
「随分話が早いじゃないか、その通りだよ。ここはUGN虹房支部でもある。私はその支部長でもあるのさ！いや、それにしても他にお客さんがいないタイミングで良かった。場合によっては記憶処理の必要もあったからな。さて、せっかくだし君のことも教えてもらおうか？」
「UGN相手でもそうやすやすと身分は明かせないな。」
「今ならスミレくんとツーショットを撮れるかもしれないぞ？」
「自分の名前は山口龍太、職業はフリーライター、シンドロームはウロボロス/ノイマン、なんか変な影を操るのが得意です！全部しゃべったぞ！！早くスミレさんとツーショット撮らせろ！」
「イヤです。」
スミレの無慈悲な宣告が告げられ龍太は灰になって崩れ落ちた。これが龍太と虹房支部との出会いである。


そんな懐かしい思い出を思い返しながら車は目的地にたどり着いた。
「さーてと、今日は何から注文しようかね～。」

“Unstoppable”に向かっていた龍太だったがちょうど到着したタイミングでノーブルアウリオンの暴走に遭遇、輝支部長と共に機械の軍勢と畔田道臣に包囲されてしまう。しかしその場に駆けつけた蓮門莉音と水無月楓花の手を借り脱出。事態の収拾に協力する事になった。市内の機械の軍勢を的確に破壊しながら幾戸スミレとの合流にも成功。道中で「スミレさんのシャンプー飲みたい」「スミレさんに殺されたい」「スミレさんにハッキングされる機械になりたい」といった正気を失った発言をしていたものの敵本拠地に突入、ノーブルアウリオンと畔田との決戦に挑み、ヨルムンガルーダを駆使してノーブルアウリオンを撃破した。
事件後、“Unstoppable”の再建にも協力。輝の本音を受け止めたりスミレに自分の思考を読まれていたことを知り悶絶したりしていた。スミレさんにはクラシックなロングスカートメイド服が似合うよ、絶対似合う。