目が醒めるような鮮やかな赤色の髪、それと同じ色の瞳を片方眼帯で隠す。スラリとした手足にヒールの要らない身長を持つ、容姿端麗なレネゲイドビーイング。

彼女は5〜6年前、とある男の手に寄り作られた。
素体となる女の細胞とレネゲイドウイルスを用い、培養槽で徐々に体を形成する手法で。
男が本来作りたかったのは、素体となる女の生き写しだった。それが例え、精神の宿らぬ肉人形でも、何も覚えていなくとも、何でも。
だが、男の予期していなかった異常が発生する。
突如レネゲイドウイルスが活性化、その濃度と適合していた細胞の分裂速度を上げ急激に肉体を形成した。
そんな兆候も何もなかったのにも関わらずに。
ロベリアは、そうやって誕生した。

この奇妙な異常の原因は掴めなかった。
そんな事よりも先に、ロベリアの命が危なかったからだ。
病気や怪我に対抗できる肉体を得る為、本来ならばもっと長い時間をかけて培養する予定だったにも関わらず、レネゲイドの濃度が高く、脆弱な体を蝕み始めるという真逆の結果が出来上がってしまったからだ。
彼女の現状をわかりやすく例えるなら、切迫早産で体重が500g程度しかない新生児が白血病だった、といった具合に。
その為、男は彼女を再び培養槽に戻し、そこで成長させて肉体を作り、抑制剤を投与していく手段を取った。
彼女の肉体年齢と実年齢が異なっているのはその為。
だがそれでも完全とはいかず、お菓子や飲み物、煙草に抑制剤を混ぜ、万が一の為に皮下注射用の抑制剤を携帯させたり、月に2回程度健康診断のようなメンテナンスを行ったりしている。
これを怠ると血管や内臓が耐えきれず吐血したり、全身に痣が浮かび上がる。
こうした対策をしているにも関わらず、少しずつゆっくり彼女の体は蝕まれている。彼女の右目は既に侵食されて黒く変色し、視力も無いに等しい。
何故そのままにしているかと言うと、変色した眼球を切除し、また新しく眼球が回復したところで変色が始まってしまうので、もう諦めた為。だが彼女のレネゲイドがの再生力が上回った時、本来の目に戻るやもしれない。

裁縫が得意で、可愛らしいものが大好き。最近は酒好きになった。
暇さえあればぬいぐるみを作ったり、ハンカチに刺繍をいれたりしている。
彼女が縫い物や編み物をよくしているのは、「人間は心のこもった贈り物をされると喜ぶ」という知識があるからである。
いつ死ぬかもわからない自分が生きていた証を残していたいのである。

前述の通り、彼女は生み出されてから5〜6年くらいしかたっていないため、情緒やヒトの感情などの知識が育ちきっていない。
その為、最近は少女漫画から純文学まで読み漁っている。
その際、本を遠ざけたり近づけたり、引っくり返したり目を細めたり、面白い行動をしている。何故なら感情がわからないから。

彼女は支部に所属していない。
引き抜きにも応じなかったのは、彼女の体質と経験が原因である。
何一つ1番になれないのに、人一倍手間がかかる自分が支部に所属すると面倒でしか無い、という潜在意識があるためである。

先生探しの途中、その筋で有名な情報屋と接触。
その人物こそが、彼女がミーシャと呼ぶ男性である。
先生を探して欲しいという依頼をしたはいいものの、払えるお金も無かったので、荒事を片付けることでツケを支払っている形になっている。
そして何故かいつの間にか、現実でも電脳空間でもミーシャと同居している。
彼女としては、ワガママをいつも聞いてくれるし、追い出されないのでそのまま住み着いている、という感覚。
じゃあ衣食住を提供してくれるなら誰とでも同居するのか、と聞かれたら話は別。多いに別。

彼女は、"先生"がまだ彼女の隣に居た時、一度激しく暴走したことがある。
その時は"先生"がなんとか止めてくれたが、周りにいた他のレネゲイドビーイング達と自らの体を傷つけた。
彼女は暴走の影響で、朧げにしかそのことを覚えていないし、暴走したことにも気付いていない。
周りが異様に燃えていたこと、苦しかったこと、痛くて辛くて、必死に助けを求めていたことなら覚えている。

電脳空間に来て、彼女は"先生"と似たような力を持った。
だが、この力は同じものではない。
彼女の力は、在りし日の思い出から引き摺り出した、記憶の影法師に過ぎない。
"本当の意味"で、彼女は"先生"にも、"陟厄ｽｼ陞ゑｽｳ"にもなれないのだ。


「…本当はあの人に合わせる顔なんてないのよ」