懐かしく、愛おしむべき顔がそこにある。彼の姿をしっかと見据え、弓を構えて叫ぶ。
「君よ、吉祥あれ」
つがえた矢に光が吹き込まれていく。

｜遺産収集者《レガシーコレクター》

UGN本部発行・月刊科学ジャーナル第██号掲載コラム「𝑨𝒔𝒕𝒓𝒂𝒅𝒉𝒂𝒓𝒊」より（一部原文とは異なる）

（前略）彼について特筆すべき能力は多いものの、UGNにとって最も重要なのは、遺産を扱う能力が抜きんでていることであろう。現在数多くの遺産の主となっている彼の、その驚異的な特性について、大きく二点に分けて見ていく。

　まず、「遺産を自らが扱いやすい形に変化させる」技術に優れている点。
　彼が保有する遺産のほとんどは物品として所持しているのではなく、呪句によって呼び出した純粋な効力のみを武器に宿していることが判明した。(※いわゆる言霊型の手法を用いたレネゲイドコントロール技術は、インド支部をはじめ各地で研究されている。関連論文の参照を薦める。)遺産のデータが保存されたクラウドから、契約によって得たアクセス権と呪句という名のパスワードを用いて、目的のソフトウェアデータをハードにインストールする、と表現すれば伝わりやすいだろうか。
　彼の基本的なスタイルとして遺産は矢に変換することが多いが、実のところ契約者が武器とみなせば何にでも変換できるらしく、理論上はその辺に生えている草すら神の武具となるという。(※この点は著名な古代文献とも一致する。)
　勿論、「呪文による遺産の効果のみの召喚」を可能とするオーヴァードは複数確認されている。しかし彼の場合、速度、威力、手数、全ての面において他の例を遥かに凌ぐ。そのレベルの高さを単純に説明するなら、例えば「射撃武器である遺産Aに、遺産Bの効果を宿した上で、遺産Cを弾丸として射出する」という事象を実現できるということだ。飛躍的な威力を生み出すのは明らかである。

　次に、「発動した遺産武器を安全に回収する」技術に優れている点。
　よく知られた話だが、強力な代物であればあるほど、一度遺産の力を解放しようとすれば、もはやそれを撤回することは難しいといわれる。レネゲイドの活性は精神の動きと強く結びついているからだ。衝動的に振るうのは易く、理性的に抑えるのは難い。
　しかし、彼は例外だ。彼の手にかかれば、既に爆発寸前の遺産であれど、たちどころに安定状態に戻ってしまう。彼の神業により防がれた悲劇の件は記憶に新しい。
　一体何故あれほどのコントロール技術を有するのか。そのメカニズムについては脳波測定等を介して解明が試みられており、一説には完全なる「無我の境地」こそが（中略）
　もし彼が、核兵器に匹敵する程の古代兵器を獲得したとしても(或いはすでに獲得しているかもしれないが)、「他のオーヴァードに抱えられるよりずっとマシ」と評議会が判断する可能性は大いにあると……研究部内で囁かれている。

（後略）

記　UGN本部研究部██班特別顧問 Dr.█████

こんなこと書いていただいておいてあれなんですが、今は許可なくむやみに遺産を使うなと指示されておりまして……。
UGN内でも、遺産についての考えは一様ではないのでしょうね。
――――エージェント“結われし白銀”

～エージェント・天白ダミニの弓バカ台詞集～

「全ての急所を射抜けば大体の敵は倒れますよ！」
「急所が一つしかない？ では全ての矢を急所に当てましょう！」
「急所が固い鎧に覆われている？ 大丈夫、装甲は矢で剥がせます！　え？ 難しいですか……確かにそうですね。では一点を射続けましょう！ 手早く30本ほど射ればすぐに穴が空きますよ！」
「慣れない野外任務はお辛いでしょう。今、身を休められる小屋を作りますからね――矢で。」
「火の手が回っている！ 皆は残っている一般人の救出を！ 僕は出火元に向かう。え？ もちろん消火してくるさ、弓矢で。」
「ぬかるんでいて進軍しづらいですね。一帯を干上がらせましょうか。」（弓を携えすっくと立ちあがる）
「衝突を避けて突破するなら……幻覚を見せましょう。足りなければ、そうですね……装備でも一斉に剥けば混乱してくれるでしょうか。どちらにせよ矢を射るだけですし。」
（やむを得ない銃撃戦の後）「ああ、我が愛弓が恋しい……。銃はどうしても性に合わない。同時に何発も撃てないし、射程も短いし、障害物越しの的を狙えないし、咄嗟にビルを破壊したりできないし。だいたい、いちいち装填するより矢を射った方が速くないか？ 矢なら尽きることなんてないのに。」
「先月の休暇は愛弓とフリークライミングに行ってきまして。良い鍛錬になりました。弓矢で峡谷を飛び越えたり……自然の中を駆け回っていると、日本での少年時代を思い出します。」
（凄惨な戦いの後）「……少々、弓と休んできます。」（大弓を抱えて眠る姿が目撃される）
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～その他色々～


「初めて引いた弓は、父が手ずから作ってくれたものなんだ。今ではもう小さすぎてとても扱えないけれど……大切な思い出だ。」