・動画サイトで配信をしている。
・今の生活にある程度満足している。
・高校は別にそんなに楽しくないけど、動画サイトの配信を最近の生き甲斐にしている。
・両親はいない。小学生の頃離婚し、母に引き取られたが病気ですぐ亡くなった。隣の家の鴻巣は兄のように慕っているが、真面目さにちょっと反抗もあったり。
・要領はいいほう。勉強はそこそこ。
・陽キャというか、現代人的な思考。今が楽しければそれでいいし、難しいことは考えたくないし、正義とか悪とかなにそれ？自分が楽しめればいいでしょ。自己責任的思考に近い。

巧矢はほくそ笑んだ。

煌々と光るスマートフォンの画面の中心部あたり、数字の羅列。なにかを分析したようなグラフの隣に、10000という文字。
今ここが教室で、今授業中でなかったら、大いに叫んでガッツポーズをしていただろう。

巧矢が開いた動画配信チャンネル–−-ケイのおしゃべりchが、登録者数10000人になっていた。
1年半ほど前から活動してやっとこの数字に達した−−−感動を覚えないわけがない。
有象無象の動画配信界隈でこの数字を得られたことは奇跡に近い。大抵埋もれて消えていくのがほとんどで、最初の目標とされている数字だ。これでやっと収益化すら視野に入れる。まるで大人の仲間入りだ。

もちろん運もあるが、努力が実を結んだとも巧矢は思っている。辛いことがなかったわけではないけれど、楽しく動画配信をして多くの人と繋がるのは本当に楽しい。
楽しいことで評価されると、こんなに嬉しいなんて。

「おい、甘崎、聞いているか？」

机の下で隠れて動画配信サイトのアナリスティックページを見ていた巧矢は、突然教師に指されてガタンと机を揺らす。幸いスマートフォンは落とさず机の中に隠せていてバレていないようで、「すみませんボーッとしてました」と頭を掻いて誤魔化す。
教師は興味なさげに注意するだけで、また黒板に向き直ってしまった。

再びスマートフォンに向き直った巧矢はまた笑う。

(そうだ！今日の夜記念配信しよう)

嬉しいことは共有したい。それにちゃんとお礼もしたい。記念的なこの出来事をもっともっと盛大にしたい。
まるで世界の中心にいるかのような高揚感。

ああ、今日の夜はどんなに素晴らしいことになるだろう！


路地裏に潜む血溜まりの闇など、彼はこのとき知る由もなかった。