速見　冴は自我を獲得したばかりのレネゲイドビーイングだ。人間を警戒する様子を見せるが、コミュニケーションに無関心というわけではないようだ。

冴は「黒犬公」と呼ばれる人間に使役されていた犬が、「犬神」という伝承を核にしたレネゲイドビーイングの依り代として覚醒した存在である。「速見　冴」という名前は「犬神」の伝承に縁のある地名や文字から作り出した仮初の名前であり、彼女がかつての「飼い主」から与えられた名前というわけではない。

「犬神」は西日本に広く伝わる伝承である。その伝承は複数の類型を持つが、「飢えさせた犬の首を切り落とし、その霊を犬神として使役する」「犬神を持つ家は富を得る」「犬神の扱いを間違えるとその家は没落する」という点は共通していることが多い。犬神を使役する家系や人物は「犬神憑き」「犬神持ち」と呼ばれ、畏敬の対象になることもあったという。

冴はこれらの伝承に関する情報を記録したレネゲイドが、その情報と親和性の高い「犬」という生物を器として活動を開始したものである。そのためか、彼女は犬神として屠られた犬たちの記憶を有している。彼女が「人間を理解したい」という行動原理を持つレネゲイドビーイングでありながら人間に対して警戒心を抱くのは、これらの「人間に殺められた記憶」が原因であると考えられる。

また、これらの記憶は冴が「黒犬公」に対して強い反発心を持つ原因でもある。「器」となった犬が置かれていた「人間の我欲のために使役される」という環境が、彼女の核でもある犬神の存在と重なるからだ。

冴はバロールとブラム＝ストーカーから成るクロスブリードのオーヴァードだが、その能力は少々特殊なものだ。彼女はその「魔眼」で睨んだものを弱らせ、その後に負う傷が致命傷となるように定めることができる。犬神を用いた呪詛を思わせるその作用は、彼女の核となった伝承がエフェクトとして現れたものと言えるだろう。