母親が世界的に有名なモデルであり、父親はそのマネージャーだった。
美しい母と聡明な父を持ち、人から羨ましがられ、期待をされ、恵まれて愛されて、自尊心も能力もすくすくと育っていった。
ある日、父親が突然出て行き、母親は自分に過干渉するようになったのだ。
「顔や体に一切傷をつけない」「門限を破ったら一週間外出禁止」「食べたものは全部書き出す」「寝る前に今日何があったか全て報告」「女の子と喋ってはダメ」これらが、母と2人で暮らすうえでの"約束"だった。
「──いや気持ち悪。」高校の卒業式、打ち上げに行こうとはしゃぐクラスメイトに門限のことを伝え帰宅し、お疲れ様と言いながら自分を抱きしめる母親に抱いた感情がソレだった。気持ち悪い。二人三脚で頑張ろうねと言いながら自分に依存して縋るこの女が。次に込み上げてきたのは怒りだった。自分は友達も恋人も作れずにこの女の人形でいなければいけないのかと思うと、許せなくなった。
初めて突き飛ばしたその体は想像していたより随分と軽くて、呆気にとられた表情は思ったより罪悪感を誘わなかった。ただ、焦げた服に気づいてじわじわと恐怖に染まっていく顔は、唆るものがあった。
「ごめん、疲れてよろけて押しちゃったね。怪我はない？」なんでもないように笑って手を出せば、女は怯えながらも笑った。なんだ、お行儀よくする必要なんてないんじゃん。そう思った。
その後、お互い危険だからと言ってさっさと家を出た。そしてそのまま、転ぶと危ないからと禁止されていた全力疾走をして、UGNの戸を叩きに行ったのだ。
もう世間体も将来もどうでもいい！つるみたい人とつるんで食べたいものを食べてやりたいことをやるんだ！

すごい奴だと思っているのは本心だが、少女らしい一面を見るたびに「どうしてこんな危ないところに」と腹が立つ。きっとこれは彼女に向けるべきものではないのだが、抱いた不満を分析するのがあまりにも下手。俺ってこいつのこと嫌いなのかな〜とたまに悩んでる模様。実際はただ傷つくことなく少女らしい日常を送ってほしいだけ。多分。

覚醒し途方に暮れていたところ色々と手引きしてくれた少女。現在でも度々世話になっているため頭が上がらない。その自由で強い様に心底憧れているが、理解者である彼女を失うのが恐ろしく時たまよくない感情が湧きそうになる。過干渉は、嫌いだ。自由な彼女が好きだ。だけど、だけど、ああ、いつかの父親のように、自分を置いていくことがもしあったら……