ゼノスか、FHか…はたまた神城グループか。ともかく、その影にいた研究者気質のオーヴァードはその力を見て、自身の属する組織にも……あるいは自分の手元にも、その並外れた力が欲しいと願った。しかし、自分がそれに立ち向かっても勝てるはずがないと理解していたそのオーヴァードは、彼女が戦場に出たのを尾行。戦闘の影から、彼女が発した爆発的なレネゲイドウイルスを自らのウロボロスシンドロームの力で以て吸収し、持ち帰って培養を始めた。
研究者のノイマンシンドロームの計算によって、より強力なレネゲイドとして覚醒させるために多量のレネゲイドウイルスを注入しながら、その複製体ともいえる実験体を作った。
「開発者と同じウロボロス/ノイマンシンドローム」を持ったオリジン:ヒューマンのレネゲイドビーイングとして「彼女」は、この世に新たな生を受けた。

……はずだった。



甘井天舞が、元は異世界からやってきた人間だという情報を持っている人物はこちらの世界には殆どいない。「彼女」を開発したオーヴァードもまた、大多数の一人だった。だから彼は予想だにもしなかったのだ。

異世界から持ち込まれた甘井天舞に蓄積された「因子」が、この世界で再度ゼロから構成されたらどうなるか。
開発者が想定しなかったオルクスシンドロームへの覚醒は、連鎖的にもう一つのイレギュラーを引き起こした。
それは、開発者が知り得ない「過去の甘井天舞」としての覚醒である。「彼女」は当然と言うべきか、こちらの甘井が弱点としていた多大なるレネゲイドによる頭痛などの拒否反応を見せることもなく研究所を真正面から脱走。
「彼女」は幸運にも───あるいはオルクスシンドロームがその幸運を引き寄せたか───自身のオリジナルが住む地点とは全くの別方向へと歩き出し、その地点のUGN支部に回収された。そして、現在UGNイリーガルとして、N市支部でも佐手井支部でもないどこかで活動している。

UGN日本支部長霧谷雄吾は、過去に深いトラウマを持つオリジナルの甘井天舞にその存在を伝えていない。
FHのアルフレッド・J・コードウェルは、ドッペルゲンガーの片方が過去に戻ったような出来事にのみ軽度の興味を示している。
ゼノスのトップ都築京香もまた、「彼女」と因縁の深い(？)星野セイにはその存在を伝えていない。ウロボロスシンドローム根絶のために共有してもおかしなことではないが、これが「プラン」故なのか、それともそれ以外に理由があるのかはわかっていない。
ただ、彼らに分かっていることは……「彼女」はそれとなく、歯の間に挟まった肉の繊維質じみた面倒臭さを含む存在であることだけだ。