実験体198番は失敗作だ。
　あるUGNチルドレンの性転換複製体(クローン)は期待された能力を発現しなかった。
　別のシンドローム。別の適正。
　それは個性ではなく失敗。
　実験体198番は、失敗作でしかなかった。

　失敗作が駆り出される仕事など、汚れ仕事しかない。
　トツカを振り回すしかできない爆弾にも使いどころはある。
　誰にとっても想定外だったのは、その現場にUGNチルドレンがいたことだったろう。
　実験体198番のオリジナル。対抗種(カウンターレネゲイド)。不死殺しのミストルティン。
　彼なら彼女を殺せたろうに。
　何を思ったか、男は実験体198番を連れ帰った。

　男は、実験体198番に同じ苗字と「幾葉」の名を与えた。
　知識を与えた。
　絆を結んだ。
　仲間と呼んだ。
　実験体198番は、柊・幾葉になった。

　けれど幾葉は無知だった。
　“この世界”はとうにFHが支配しているのだと識らなかった。
　UGNという組織はFHに摺り潰されるだけなのだと知らなかった。
　彼は殺された。
　“パペットマスター”に。その手勢に。
　
　幾葉は知らなかった。
　大切なひとの死が、どれだけ痛みを生むものなのか。
　大切なひとに死を齎した相手が生きていることが耐え難いなんて。
　幾葉は知ってしまった。
　知ってしまったから、UGNにはいられなかった。

　柊・幾葉は失敗作。
　ひとにもなれず、人形にもなれなかった裏切者(ダブルクロス)だ。