銃声と金属がぶつかる音が聞こえる。この現代、そして日本では聞かない音だろう。
「あぁ……クソ…深々刺しやがって、あいつ……」
腹を押さえ、何とか止血する方法を探す。しかし、みつからない。このままでは、死んでしまうのも時間の問題だろう。
「あぁ~…死ぬのか、私。ふふっ、あははは……」
自身の死を悟り、笑いを抑えきれない。いや、笑うしかないだろう。
しかし、そんな彼女に近づいてくる足音が聞こえる。
(…足音?なんだ?…まぁ、ここで惨めに死ぬくらいなら……)
その場にあった拳銃を拾い、こちらに近づいてくる足音に警戒心を強める。
そこに現れたのは、彼女と同い年くらいの、十歳の少年だった。
少年は、彼女に気付く。真紀も、気づき、少年に銃を向ける。
少年も同様に、彼女にナイフを向けた。重苦しい空気が流れる。しかし……
「ごふっ……」
「っ…」
先程受けた傷が深かった。彼女は血を吐き、力が抜けたように拳銃を落としてしまう。
(あぁ、終わったな。…私の人生、なんだったんだろうな)
「だい、だいじょうぶ!?」
もうろうとする意識の中、最後に少年の心配するような声を聞き、彼女は意識を失ってしまう。
次に目を開ける。と、いうよりも自分が生きていたことに驚いた。
「…あれっ、私死んだはずじゃ?」
自分の身体を見ると、そこには下手くそながら手当されていた。
腹に包帯がぐるぐるにまかれ、他腕や胸にも包帯が巻かれている。
「……?」
彼女は思考を巡らせていた。なぜだ、と。なぜ、死にかけている私を助けたのか、と
そんなことを考えていたら、意識を失う前、最後に見た少年が入ってくる。
「あっ、よかった。目が覚めたんだね。」
「……これ、お前が?」
「う、うん。そうだけど……」
「……そうか。わかんねぇことするんだな」
少年は不思議そうな顔で真紀の事を見る。そして、真紀はさらに続ける。
「なぜ私を助けた?敵を増やすだけだぞ?」
「そんなことは、わかってる。でも……」
「でも…?」
「……君、生きたいなって顔をしてたから」
「くっ、ふふ、ははっ……あっはっはっはっは!!」
真紀は、彼の言い分を聞き、腹を抱えて笑った。
「な、なに?なにがおかしいの?」
「いや、おかしいだろ?このくそったれな施設で今何が行われてるか、わかってるだろ?」
「生きたい?そりゃあ誰だって同じだ。私も、お前も。生きてぇって思うから他の奴等を殺してんだろ?」
「そんな理由で、助けられちゃあ笑わねぇ方が無理だぞ?…でも、一応礼は言っておく。あんがとな」
「…うん、どうも」
「で、お前…名前はなんていうんだよ?」
「な、名前?」
「そうだ。私は、真紀。お前、私と組まないか?」
「組むって……えっと?」
「あぁ~…要するに、協力しないかってことだよ。まぁ、私を助けてくれた礼だとでも思ってくれ」
「…うん、じゃあ一緒に最後まで生き残ろうね!真紀!」
「あぁ…」
「あ、あと…僕は天童 正平っていうんだ!よろしくね!」
「おう、よろしくな。ショウヘイ」
「ってぇ~……大丈夫か?ショウヘイ。」
「うん、僕は大丈夫。マキも大丈夫?」
「あぁ?あぁ、まぁ、なんとかな。」
「…それに、この頃傷の治りもなんか早い気がするんだよな」
「ん?どうかした?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」
「うん、わかったよ。」
「さて、どうするか。おい、ショウヘイ。こっちの弾は残りいくつだ?」
「えっと、あと3発。マキは?」
「…さっきばかすか撃っちまったからな。残り2発だよ」
「えっと、これって少しまずい状況?」
「あぁ。向こうの人数を考えるに、もう外せねぇ」
「それかどうする?私と一緒にナイフ一本で突貫して一緒に死んでくれるか?」
「えぇ!それは嫌だよ!一緒に生き残ろうって約束したじゃん!」
「冗談だよ。」
「そっか……あっ!そうだ!ねぇ、マキ」
「んだよ?この状況をなんとかできる方法でも思いついたのか?」
「あっ、それとは違うんだけどね……一緒に生き残ったら僕、マキに渡したいものがあるんだ!」
「…んだよ、こんな時に。まっ、お互いに生き残ったら受け取ってやるよ」
「うん!」
「…そうだ、いいこと思いついた」
「えっと?」
「最近な、私傷の治りがなんだか早くなってる気がするんだよ。」
「だから、私がナイフ持って突貫する。お前は後ろでそれ撃って援護してくれ」
「えっ!それだと、マキが……」
「…まぁ、なんとかなるだろ。3・2・1で行くぞ」
「う、うぅ…わ、わかったよ」
「行くぞ……?」
こうして、私たちは敵を殺して行って、最終的には二人で生き残った。
それを見ていたのか、この研究所の人間が私たち二人の下に来た。
「おめでとう、二人とも。よくこの戦いを生き抜いてくれた」
「特に、真紀。きみは実によく戦ってくれたよ。あの時の常人なら致命傷にすらなり得る状態での大立ち回りには私も絶賛の声しか出なかったよ」
「そりゃあどうも」
「・・・・・・・」
「おっと、失礼。天童君といったかな?君も、真紀のサポートをやってくれた。んん~、二人は実にいいコンビだ」
興奮を抑えきれない研究者を、真紀は鋭く冷ややか目線で見ている。
「しかし困った。この実験は、"最後まで生き残った……」
真紀は、研究者の言葉を遮るように、銃を正平の頭部に向けて撃った。
正平はそのまま地面に倒れる。死亡しているという事は、誰の目から見ても明らかだろう。
再び、真紀は研究者に目を向けて言う。
「これでいいんだろ?クソ野郎。」
「は、ははは…実に、実に素晴らしい……!」
ひきつった笑いがだんだんと狂気を帯びた笑いに変わっていく。
「くくっ、それでは行こうか。真紀。君にやってもらいたいことはまだまだあるんだ」
「……わかったよ」
研究者についていく真紀。ふと、正平の方を向く。彼の頭部からは血が流れている。
しかし、彼女の目に映ったのは、彼のポケットから飛び出したものだった。
彼女は、それを確認しに行く。研究者が真紀を呼び止めたが、今の彼女にその声は届かなかった。
彼のぽっけからは、二つの髪留めが落ちていた。ゴムのワッカにサクランボの装飾品がある、シンプルな作りだった。
真紀は、彼の言葉を思い出す。"一緒に生き残ったら、渡したいものがあるんだ!"
「……ごめん。」
彼女は、髪留めで髪を結ぶ。そして研究者の方へ銃を向けた。
「な、なにを……」
「私が生き残るためだ。じゃあな、クソ共」