ゆとシートⅡ for DX3rd - ゆと工公式鯖

睦月 紅狼 - ゆとシートⅡ for DX3rd - ゆと工公式鯖

緋色の死神(スカーレット・リーパー)睦月 紅狼(むつき くろう)

プレイヤー:シロ

地獄へ送るなら俺からにしな。騒がしく出迎えられるのなんざ俺にはもったいねえよ」

年齢
35
性別
星座
獅子座
身長
176
体重
62
血液型
A
ワークス
UGNエージェントC
カヴァー
手品師
ブリード
ピュアブリード
シンドローム
エグザイル
HP最大値
29
常備化ポイント
6
財産ポイント
6
行動値
5
戦闘移動
10
全力移動
20

経験点

消費
+50
未使用
0
フルスクラッチ作成

ライフパス

出自 代々とある一族に仕える奉仕者の家系に生まれた
名家の生まれ
経験 主人との死別
永劫の別れ
邂逅/欲望 自分が生きる目的。主人の命を奪ったこの男と再び出会い、殺すために今はUGNで力を磨いている。
殺意
覚醒 侵蝕値
犠牲 16
衝動 侵蝕値
自傷 16
侵蝕率基本値32

能力値

肉体4 感覚2 精神1 社会2
シンドローム2×2 シンドローム1×2 シンドローム0×2 シンドローム1×2
ワークス ワークス ワークス1 ワークス
成長 成長 成長 成長
その他修正 その他修正 その他修正 その他修正
白兵 射撃 RC1 交渉
回避 知覚 意志1 調達1
知識:レネゲイド2 情報:UGN1

ロイス

関係 名前 感情(Posi/Nega) 属性 状態
雇い主 霧谷雄吾 誠意 厭気

エフェクト

種別名称LVタイミング技能難易度対象射程侵蝕値制限
リザレクト 1 オートアクション 自動成功 自身 至近 効果参照
(Lv)D点HP回復、侵蝕値上昇
ワーディング 1 オートアクション 自動成功 シーン 視界 0
非オーヴァードをエキストラ化
デモンズウェブ(5/5) 5 オートアクション 自動成功 単体 10m 2 80%
1ラウンド1回。ダメージ算出直後に対象が受ける予定のダメージを-【LV+1】D。
骨の剣(1/5) 1 マイナーアクション 自動成功 自身 至近 3
剣ではなく体を糸化。データは武器に記載。
コンセントレイト(MAX) 3 メジャーアクション シンドローム 2
C値-3
オールレンジ(7/5)(MAX) 7 メジャーアクション 〈白兵〉〈射撃〉 対決 武器 2
判定+【LV】D
伸縮腕(MAX) 3 メジャーアクション 〈白兵〉 対決 視界 2
組合せた攻撃の射程を視界に変更。組み合わせた攻撃の判定ダイスを【3-LV】D。
死神の精度(HR)(5/3)(MAX) 5 メジャーアクション 〈白兵〉〈射撃〉 対決 単体 武器 4 リミット
前提:オールレンジ 1シーン1回。オールレンジと組み合わせた攻撃の攻撃力を+【LV*5】

コンボ

絞首裂殺

組み合わせ
【マイナー】骨の剣 【メジャー】コンセントレイト:エグザイルオールレンジ伸縮腕
タイミング
メジャーアクション
技能
白兵
難易度
対決
対象
単体
射程
視界
侵蝕値
6
条件
ダイス
C値
達成値修正
攻撃力
100%未満
4+7
7
6
100~
4+8
7
7
160~
4+9
7
8

骨の剣はコストに含まず。
伸縮腕抜き:コスト4、射程:至近に変更

死神の吐息

組み合わせ
コンセントレイト:エグザイルオールレンジ死神の精度伸縮腕
タイミング
メジャーアクション
技能
白兵
難易度
対決
対象
単体
射程
視界
侵蝕値
10
条件
ダイス
C値
達成値修正
攻撃力
100%未満
4+7
7
31
100%以上
4+8
7
37

シーン1回。
侵蝕率の様子を見つつ、シーン毎の最大打点が叩き出せるタイミングで使用する。

武器常備化経験点種別技能命中攻撃力ガード
射程解説
骨の剣(糸) 白兵 〈白兵〉 -1 LV+5 6 至近 体を変化させた超硬質の糸。

経験点計算

能力値 技能 エフェクト アイテム メモリー 使用総計 未使用/合計
0 0 180 0 0 180 0/180
侵蝕率効果表

現在侵蝕率:

容姿・経歴・その他メモ

戦闘イメージ:超硬質かつ極細の糸にした自分の体を周囲に張り巡らせて敵を引き裂く。

履歴

紫煙の向こうに描く過去≪1≫


――こちら紅狼、作戦は終了だ。敵対組織である以上、当然手心は加えていない。話を聞きたければさっさと回収するんだな」

意識を失ったオーヴァードたちが血だまりに沈む中、俺は懐から煙草を取り出して火をつける。
もうすぐ雨が降りそうなどんよりとした空模様に溶け込ませるように、口に含んだ紫煙をくゆらせる。

――曇りっていうのは嫌な天気だ。クソッたれな記憶と一緒に、俺の憎悪を焚き付けてきやがる」

そう呟きながら、俺は再び煙を吐き出した。
そして、その向こう側にまろび出た過去を、いつものように幻視する。


『わ、私が本家へ、ですか!?』
『ええ。あなたも八雲様の下で経験を積んできたところです。何より、私がそろそろ隠居を考える歳になってきたものですからね』

先代、如月璃鷹(あきたか)から話を受けたのは俺が30歳を迎えた頃だった。
本来であれば睦月家が代々務める九十九家への御奉仕。
それは勤めの最中に父親が急逝したために、当代は我が家の分家である如月家の人間が務めていた。

億彦(やすひこ)坊ちゃまも高校生に上がられて分別の付く年頃になって参りました。であればこそ、ご自分の身が置かれている状況にも理解が追い付いてくる頃合いでしょう。九十九家はあまりにも敵を多く作りすぎている。当代でいくらか解消されているとはいえ、それでも恨みを持つ敵も多い』
『心得ております』
『では、我々がすべきことは?』
『主君に付き従い、身の回りのお世話を熟すこと。そして何より、迫りくる障害を、この身を以って打ち崩すこと』
『よろしい。では、顔合わせと参りましょう。――くれぐれも、坊ちゃまから目を離さないように』

そうして訪れた九十九家では、想像だにしない歓迎を受けることとなった。
俺は使用人であるはずなのに、俺を迎え入れてくれた主人、九十九万丈(まひろ)様は俺のために歓迎会を開いてくれたのだ。

『これから君も私たちの家族の一員となるのだ。であれば、これくらいのことをしておかないと我々の気が済まない』
『は、はぁ……いえ、ご主人様がそう仰られるのであれば、私はありがたくその好意を受け取らせていただくだけなのですが……』
『君の言いたいことは分かるよ。伝え聞く話とのギャップだね?』
『ええ……恐れながら、私の率直な所感を述べさせていただいてもよろしいでしょうか?』
『構わないよ。先ほども伝えたように君は新しい家族だ。好きなように発言をしてくれたまえ』
『では……私は当然、当代のご主人様について、歩んできた道や素晴らしい功績の数々があることを存じ上げております。全国各地の児童養護施設への支援活動、被災地域への食料を含む生活必需品の寄贈、所縁の在るこの地域の教育施設に対する設備の寄贈。詳細を確認すれば、いずれもプロモーション目的で行われる規模を遥かに上回る内容でした。私はそれを好ましく思っておりますが……あまりにも先代までの九十九家とは在り方が異なっているのが気になっております』
『ハッハッハッ、まあそうだろうね。九十九一族がしてきたことを考えれば当然だ。一族の力を発展させるために、ライバルとなる企業や家の会社と土地を買い上げて乗っ取り、その上で先がないと判断した事業は即座に畳んで優秀な社員だけを引き抜き別の事業に合流させる。そんな人の生活を考えない強行に、路頭に迷った人間がどれほどいたかなんていうことは、最早辿ることすらできないだろう。そして、記録に残っていない裏の顔も、きっと嫌というほど持っていたのだろうね。しかし、それによってこの九十九家は強大な力を持つようになった。――だが、私はある一件を通して気付いたんだ。先代の、父までのやり方を踏襲していては一族に未来はない、と』
『……その一件とは?』
『君の父、睦月虎徹(こてつ)の死だ』
『私の父の……?』
『その様子だと、やはり本当のことを聞かされていないようだね。……この話を当人に告げるのは非常に酷だということは重々承知だが、私は君に真実を知っていて欲しい』
『真実……? いったい何の話を――
――睦月虎徹は殺されたんだ。……私を庇ってね』

紫煙の向こうに描く過去≪2≫


万丈様の話を聞いた時、俺は何を言われたのか理解が追い付かなかった。
万丈様の先代、三七百(みなも)様は事故に遭われたが、辛うじて一命を取り留めていた。
そのおかげというのは不謹慎だが、亡くなられるまでの短い期間で万丈様に引継ぎを済ませることができたのだ。
そして、睦月虎徹(とうさん)はその事故で命を落としたがために、先代である璃鷹さんが万丈様のお世話をすることになった。
――しかし、実際に起きた出来事は敵性勢力が仕掛けた暗殺による殺害事件だったという。


『すまないね。歓迎会だというのにこのような動揺を誘う話を持ち出してしまって。しかし、何よりも私は君に謝罪とお礼を言いたいのだ。我が一族の事情で君の父親を奪ってしまってすまない。そして何より、君たち一族のおかげで、私は今もこうしてここで君と食事をすることができている。その恩義は言葉では返しきれないものだ』
『頭を上げてください。私共の一族はそれこそが使命であり、そのために存在しているといっても過言ではありません』
『それでもだ。命の恩人に報いることがない恩知らずではありたくない。私の我が儘を、どうか受け取ってはくれないだろうか?』
『……その我が儘と言うのが九十九家へ仕えること、だと?』
『そうだ。璃鷹には十分良くしてもらった。代替わりにはちょうどいい頃合いだろう。――これは君の意思を問う話だ。もし、この話を聞いた上で九十九家に付き合いきれないというのであれば、君の意思を尊重しよう』
『私の覚悟は既に決まっております。この身は九十九家のため、そう思い、知識と技術の研鑽を重ねて参りました。今更、父の死でそれが揺らぎはしません。ましてや、父が万丈様を守って命を落としたというのであれば、これほどの誉はないでしょう。睦月家というのはそういう一族でございます』
――そう言ってもらえて嬉しいよ。では、私の身の回りはまだしばらく璃鷹に頼もう。先に息子の億彦との関係を築いていって欲しいのだ』
『億彦様と?』

そんな折、『ただいまー』という声と共に2つの足音が部屋に向かってくるのが聞こえてきた。
扉を開けたのはこの場に居合わせていなかった璃鷹さん。
そして、その後ろに立っていたのが億彦様だった。

『おや、到着時刻をもう少し遅らせた方がよろしかったですかな?』
『いや、流石だよ。ちょうど話を終えたところだ。億彦、こちらが今日から璃鷹と共に私たちの身の回りの世話を受け持ってくれる――
――睦月紅狼でございます。これからよろしくお願いいたします、億彦様』

万丈様に紹介されるよりも早く、俺は億彦様の前に跪き、服従の意を示した。

『えっと……よろしくお願いします、紅狼さん』

控えめな返事に万丈様との違いを感じつつ、俺は新たな主に微笑みを返した。

紫煙の向こうに描く過去≪3≫


奉仕業が始まってから、正直なところ身の回りの世話はほとんどやる必要がなかった。
家でのことは大抵璃鷹さんが熟してしまうからだ。
では、俺が何をしていたのかと言えば、学業に出ている最中の億彦様を見守ることが主な仕事だった。

(お誂え向きの高台があることを考えると、父さんもここから万丈様を見守っていたのかもな)

そんなことを考えながら、双眼鏡片手に停車した車の横に折りたたみ椅子を置いて、億彦様の動向を見守る。
思い描いていたものとはかなりかけ離れているものの、常に学校の中で付きっ切りというのも難しい話だ。
何より億彦様が嫌がるだろうということも想像に難くない。

(ご学友と一緒に居る内はまだ危険度が低いのが救いだけれど、裏では既に敵性勢力が動いているのが何とも……)

身辺警護を始めてから数日。
新入りに変わった今なら隙ができやすいと感じたのか、敵性勢力の動きは活発になっていた。
連日襲ってくる刺客たちを秘密裏に追い払うのは中々に骨が折れるものだったが、
全容の知れない相手なだけ精神的に疲れるだけで力量はゴロツキ程度。

(できても精々擦り傷や打ち身くらいだから、翌日には治っているのが救いかな。強い体に生んでくれた両親に感謝か)

そんな日常がしばらく続いたある日。
その運命の日はやって来ることになった。

***

――その依頼、高くつくが貴様らに金を用意できるのか?』
『ハッ、用意できなければこんなところになんざ来てねえよ。そもそも、最初からあんたに頼んでおけば、この金を用意するのに苦心することは無かったんだ』
『それは見る目がなかったとしか言いようがないな。コマを用意するのであれば、その仕事に見合ったコマを見極めることが雇い主には必要だ。その点、貴様らは落第点だったという訳だな』
『クソッ……言わせておけば……』
『人間ではオーヴァードに勝てないことは分かっているだろう? 貴様らが雇い主である間は命は保証してやる。くれぐれも、変な気を起こさないことだ。貴様ら如きのはした命を奪うのに手間をかける方が面倒だ』
『ケッ、大口を叩いたんだ。絶対にしくじるなよ!』
『ああ。狩猟者(プレデター)の名において、絶対の成功を約束しよう』

***

紫煙の向こうに描く過去≪4≫


『では、これにて私のお役目も終了でございますな』
『先代として支えていただいたこと、光栄に思います』
『いえいえ、私としてもあなたであれば安心して任せることができますよ。しかし、お気を付けください。手薄になる今夜が一番危険なのです。――決して、何があっても自分を責めすぎないように。特にあなたは九十九家への思い入れが御強い様子ですからね』
『肝に銘じておきます。最後まで、ご忠告いただきありがとうございます』

璃鷹さんを見送り、食事の準備を済ませると別の付き人に後を託して、億彦様の迎えに出る。

『おかえりなさいませ。本日はいかがでしたか?』
『いつも通りだったよ』
『左様でございますか。特に変わった出来事もございませんでしたか?』
『うん、大丈夫。そんなことより早く帰ろうよ』
『畏まりました。万丈様も既にご帰宅されております。着き次第、すぐにお食事に致しましょう』

そんな他愛もない会話をしながら帰路を急ぐと、猛烈な違和感に襲われた。
日が落ちた時間であるのに、館の方角が妙に明るい。

『……億彦様、この周辺で身を隠してお待ちください。もし身に危険が及ぶ事態となった時には、すぐにお逃げください』
『く、紅狼?』
『お屋敷で何やら良からぬことが起こっているかもしれません。私は万丈様の下へ急ぎます』

頷きが返されたことを確認し、フルスロットルで車を走らせる。
屋敷に到着すると、一部から火の手が上がっており、強い絶望感が精神を満たした。

――万丈様!』

叫びながら屋敷に飛び込むと、火の手の中心が食堂であることが分かった。
急いでそちらに向かうと、膝をついて苦しそうにせき込む万丈様と、周囲に倒れる付き人たち、そして、見知らぬ男の姿がそこにあった。

『く、紅狼……』
――お前か、これをやったのは? ……いや、答えなくていい。この現場を見れば一目瞭然だ』
『ククッ、歯ごたえの無いやつばかりかと思えば、存外良い護衛が残っているではないか』
『誰の差金だ?』
『さあな。依頼が有効な内は守秘義務を守らせてもらおう。これでも信用稼業でな』
『そうか。じゃあ、口を割らせるのは後回しだ。まずは借りを返させてもらおうか』

言い終わるや否や間合いに飛び込み右ストレート、左蹴り、右回し蹴りを立て続けに見舞うが、これは相手に簡単に往なされた。

――やはり悪くないな。では、これについてこられるか?』

そう目の前の男が呟いた後、体が急に気怠くなった。
煙を吸いすぎたかと思ったが、姿勢を低くしている万丈様が突然意識を失ったことと、直前の言動を加味すれば、この男が何かしたと考える方が自然だった。

『……つまらんな。見込みはあるようだが、まだ覚醒はしていないか』
『何の……話だ!』

強引に体を動かし、再び拳を振るう。
――直後、激痛で思考に空白が生じた。
受け止め様に、俺の肘は膝蹴りを叩き込まれて逆関節に折れ曲がったのだ。

――――ッ!!』
『ほう、叫ばぬか。精神力は中々のものだな。貴様はそのまま生かしておいた方が面白そうだ。それに、貴様に足りない後一歩が何なのか、俺には見えたぞ』

そんな言葉を俺に投げかけながら、男は踵を返して万丈様へゆっくりと近づいていく。

『……よせッ! やめろ!!』
『覚えておけ。これが力無きものが味わう絶望の味だ。そして、共に刻んでおけ。俺は伊庭宗一(いば そういち)、こちらの世界では狩猟者の名で通っている。それが、貴様が憎むべき男の名前だ』

そう醜悪な笑顔を浮かべて名乗った後、伊庭の腕は易々と万丈様の胸を貫いた。
何が起きたか分からない様子の万丈様は、ただ驚愕に見開いた眼で俺のことを見つめていた。

『さあ、ここでの仕事は終わりだ。まだ一仕事残しているのでね。俺はこれで失礼させてもらおう』

そう言葉を残し、無造作に万丈様を放り投げ、伊庭は屋敷を出て行った。

『ま……万丈、様……』

痛みで靄がかかる意識を押しのけ、体を引き摺って万丈様の下へ近寄る。
息も絶え絶えな様子で、刻一刻と死期が近づいてきていることが嫌でも分かった。

『紅狼……恨みはせぬよ。私が受けたのは、九十九一族が背負うべき業であって、本来なら君が背負うべきものではないのだからね』
『であれば! ……であれば、真っ当な生き方をしてきたあなたも、本来は関係がないものではありませんか!』
『私一人の話であれば……な。だが、これは一族の問題なのだ。九十九一族が力を持つ以上、その子孫が背負うべき、運命なのだ。――最後の……願いだ……。私のことはもういい。どうか、息子だけでも……この運命から救ってやってはくれないか?』
――この命に代えても、その願い、叶えて見せましょう』
『……良い返事だ。親子共々、私に尽くしてくれて……本当に……ありがとう……』

――万丈様の最期の言葉はとても優しく、苦痛の中にあったとは思えないほど安らかな表情での旅立ちだった。
――周囲には俺の慟哭と屋敷の焼ける音だけが響いていた。

一頻り涙を流した後、俺は埋葬することも叶わない不義理を謝罪しながら、億彦様の下へと走った。
不思議なことに、その時には折れたはずの腕はもう治っていた。

紫煙の向こうに描く過去≪5≫


屋敷を飛び出した後の俺には、不思議と伊庭の向かった場所が肌で感じられた。
壊されていた車を放棄し、全力で走り続けているというのに、一向に息が上がる気配が見られない。
それどころか、刻一刻と膨らんでいく憎悪によって、ぐんぐんと足が速くなっているようにすら感じられた。
それから5分ほど全力疾走を続けただろうか。
ようやく、俺は目の前に敵を認識することができた。

――イバァァァァァァァッ!!』
――ほう、どうやら九十九万丈を目の前で屠ったのは正解だったようだな。先ほどよりもいい面構えをしている』

激昂する俺と標的を圏内に捉えた冷静な伊庭。
その熱量の違いに、どうしたら良いか分からないと言った様子の億彦様は、ただただパニックになっていた。

『……億彦様、申し訳ありません。万丈様の命を守ることは叶いませんでした。ですが、この命に代えてでも……あなたは守り通して見せます』
――――ッ!?』

万丈様の死を知った億彦様はショックを隠しきれていなかった。
しかし、自身の身に迫る脅威を前に、泣くことすら許されていないこの状況に、ただただ感情を押し殺している様子だった。

『できない約束はするものではない。いくら覚醒したとはいえ、今の貴様では俺に勝つことは不可能だ』
『うるせえよ。力不足だとか、誰が差金だとかそんな話はこの際どうでもいい。お前だけは……この手でぶっ殺さないと気が済まねえ!』

大きく一歩踏み込んでの右ストレート。
先ほどと同様に、これを受け止めて折ろうとアクションを起こした伊庭は表情を変える。

――手ごたえがない?)
――誘いに乗ってくれてありがとよ』

自分の体に起きた異変。
情報を整理するには時間が足りなかったが、状況を飲み込み理解するには走っている時間で十分だった。
体を糸に変換し、伊庭の体を磔にする。

『テメエに遺言なんざ必要ねえよな? このまま万丈様に詫びて来い!!』

叫びながらの渾身の一発。
――確かにそれは決まったはずだった。
だが、俺の拳は赤い硬質の何かに阻まれていた。

『何だ……これ……!?』
『力の応用では一日の長がある。先ほど目覚めたばかりの新米に後れは取らんさ。それにしても、面白い力の使い方をする。どれ、俺も真似をさせてもらおう』

そう呟いた伊庭の体から赤い液体が迸ったかと思うと、液体は形状を変えて糸になり、俺の体を磔にした。

『さあ、お返しだ。くれぐれもこんな程度で死んでくれるなよ。それと――

――今言った者たちが俺の依頼主だ。お前が戻ってくる頃には俺の依頼は片付いている。後は好きにしろ。

こちらの耳元で呟かれた言葉に、俺は咄嗟に反応することができなかった。
次の瞬間、伊庭に殴られた俺は弾き飛ばされるように500メートル近く後方に吹き飛ばされていた。

――ガッ……ゲホッ……クソッ!!』

慌てて態勢を立て直し、全力で戦いの場に戻るが、伊庭が言ったように事は終わってしまっていた。

――くそっ……クソオオオオオオオオオオオオ!!!』

目の前に力なく転がる億彦様の亡骸を抱きかかえながら、この日二度目となる大きな喪失を、俺はただただ惨めに受け入れるしかなかった。

紫煙の向こうに描く過去≪6≫


『……左様でございますか。当事者であるあなたが一番辛かったでしょうに』
――いや、辛かったのは御二人です。……俺は結局、何も守ることができなかった』
『あなたはあなたの持てる全てで事に当たった。そのことだけはどうかご自分を評価してあげてください。……決意は揺るがないのですね?』
『……ええ。これまでお世話になりました。今日を以って、俺は九十九とも、八雲とも無関係の人間です。警察が探りを入れてきたら、遠慮なく俺を売ってください』
『それは私共の良心が許しません。あなたにはこちらも大変お世話になりましたから。……あなたの行く道にせめて救いがありますように』
『璃鷹さんも、どうかお元気で』

***

――以上が、あなたが手にかけてきた人の名簿です。何か訂正があれば仰ってください」
「いいや。間違い何て一つもない。全部俺がやったことだし、全員が恩人の仇だったクソッたれどもさ」
「では、重ねて問います。あなたはこれからも、人を殺すつもりですか?」
「いいや。俺は元々そんな物騒な趣味を持ち合わせている訳じゃない。殺すべき人間を殺し終えた今、人殺し何て微塵も興味はないよ。まあ、どうしても殺さないとならない人でなしならいるがね」
――伊庭宗一、ですか」
「流石、良く調べている。……それで? 俺の復讐の邪魔をしようっていうのなら、あんたも容赦なく叩き潰すけど?」
「いいえ。復讐自体を推奨するわけではありませんが、あなたの抱えている憎悪が途方もなく大きいものであることは分かります。しかし、どうでしょう? 今のあなたの力で、伊庭宗一に届くと思いますか?」
「…………例え届かなくても、俺は足を止めるつもりはないよ」
「だからこその提案です。あなたの力を我々UGNに貸してはいただけないでしょうか? 実戦経験を積むことを考えると、オーヴァードやジャームの鎮圧程、効果の高い経験値稼ぎはないと私は思っています」
――そういうことか。いいぜ。俺にとっても悪くない話だ。ただし、俺は二度と誰かを主人に持つことは無い。あんたも俺を飼おうっていうのならその意識を改めておくんだな、霧谷」
「飼うだなんて、ある方ならともかく私はしませんよ。私が求めているのは共に戦う仲間ですから。では、早速ですが一つ依頼を託させていただきます」


(※≪1≫へ繋がる)

セッション履歴

No. 日付 タイトル 経験点 GM 参加者
フルスクラッチ作成 0
RoMメイキング 50

チャットパレット