滝野川　エマは市内の高校に通う女子生徒である。比較的物静かな性格だが、心を開ける友人はそれなりに居るようだ。身に着ける小物にはタロットカードの意匠を模したものを好むため、占い好きの女子生徒から話を振られることも多い。

また、エマはUGNチルドレンでもある。その能力はオーヴァードの排除に長けており、従事する任務は戦闘の発生が予見されるものがほとんどである。

エマはオーヴァードに覚醒すると同時にUGNから保護を受け、彼らの下で生活するようになった。10年ほど前のある雨の日、レネゲイドの反応を検知したUGN職員がその場に向かったところ、暴走状態にあったエマを見つけたことが保護のきっかけだった。UGN職員がエマを排除ではなく、保護しようと考えた理由は「覚醒したての子供だから」というものだけではなかった。エマの装いが不衛生なものであり、栄養状態も劣悪であることが見て取れたからである。

エマは父親の顔を知らない。母親が海外旅行中に知り合った男性であるということは聞いているが、エマが生まれる前に他界したという話だ。夫がいない分、エマの母親が子供に熱心な愛情を注いでいたかというとそんなことはなかった。彼女は育児をほとんど行わず、食事を用意しないこともあれば数日間家に戻らないことも珍しくなかった。エマが覚醒したのは、空腹に耐えかね路地裏で食べるものを探し歩いていた時のことだったのである。

なお、UGNによるエマの引き取りは順調に進んだ。「あんたがいなければ次の相手を見つけられるのに」そんな言葉が口癖だったエマの母親に、娘の引き渡しを渋る理由などあるはずがなかった。

エマはピュアブリードのバロールである。戦闘の際は銃器や刃物を扱わず、重力そのものを武器として扱う。射程を問わず行われる不可視の圧砕攻撃は、単純であるがゆえにオーヴァードに対しても十分な脅威となりえる。また、エマは「対抗種」と呼ばれる素養を持つオーヴァードでもある。レネゲイドそのものを破壊するこの素養により、彼女の攻撃はオーヴァードに対して致命傷となることが多い。尤も、この素養により身体を害されるのはエマ自身も例外ではなく、知らずのうちに血を流していることもある。彼女が重ね着を好むのは、手首や太腿に巻かれた血の滲む包帯を隠すためである。

エマにとって、生家は安定して食事を得られる場所ではなかった。そのため母の不在時には食料を探して家中を漁りまわることもあった。幼い日の彼女がそんな折に見つけたのが、生前の父が母国から持ち込んだというタロットカードだった。その意匠に惹かれたエマは、それに触れることで空腹を紛らわせるようになった。このタロットカードは、エマがUGNに引き取られた際に持ち出した数少ない物品の1つである。

幼いころはカードの使い方など知らなかったが、今では簡単な占いができる程度にはカードの意味を理解するようになった。任務の合間に自身の今後をカードに尋ねたり、頼まれれば友人のために占うこともある。尤も、エマは「占い」を妄信しているわけではない。良い暗示が得られれば「それを成すため」、不吉な暗示に遭えば「それを覆すため」、エマは思慮をめぐらせる。カードは人を縛るためにあるのではないのだから。