「オーヴァードがエフェクトを用いて開発した品」を主に取り扱う禮花堂には、店を持てないオーヴァードたちの手製の品が持ち込まれ、同じく認可を受けた他のオーヴァードの店と比較しても類を見ない品揃えを誇る。
いわゆる「知る人ぞ知る」商店であるのだが、そこの店主が小さな子供となると信頼に疑問符が付く。
そこで、ただのこどもではないどこか超然とした人物である。ということをアピールするために、年齢離れした立ち居振る舞いをするようにしていた。それを2年ほど続けた結果、自分でもどちらが素なのかわからなくなっている部分がある。

「幸いにも僕は容貌に恵まれているからね。ちょっとした小細工で効果抜群であるとも」

そうまでして店主を続けている理由は主に2つ。
オーヴァードの作る道具を収拾し、かつ他者との関わりを持つため。

3年前に学園島を訪れる以前の記憶を持たない彼は、自身の社会的な立ち位置というものを把握しきれておらず、誰かにとって有用でなければいけないという思いにとらわれている。
それは自分自身について何もわからないという不安の裏返しであり、他者からの承認によって自分のアイデンティティを確立させたいという欲求の発露と言える。

人工物の複製、強化。
正確にはその道具が持つ「意味」（用途やそのクオリティ。本質と言い換えてもいい）を取り込み、より洗練されたものを作りだす能力。
「意味」を奪われた器物は極端に脆くなり、また複製した道具もその用途を満たすと砂と消えてしまう。
つまるところは「消費」しか出来ない力であり、それが夜霧にとっての数多いコンプレックスの一つとなっている。

一定期間能力を使用しないと強い衝動に襲われる。
これは当人をして「飢餓感」に例えられる感覚で、本能的なものであるためか制御が出来ない。
それが頂点に達した時どうなるのか、夜霧本人は知らず、学園側も危険が伴うからと実験を許可していない。
始末が悪いことに量産品には「食指が動かない」ため、現在のような環境に落ち着くほかなく、入荷した商品の3割ほどは「食材」に充てざるを得なくなっているのが実情。