下層(ヴィクトス)における平均的な家庭に生まれ、両親や妹と一緒に裕福ではないが幸せな暮らしをしていた。
しかし妹の物心が付く頃に上層(ウィネルス)の主導で進められた事業により、彼ら一家は住んでいた土地を追われてしまう。
平穏でささやかな生活は突如として終わり、下層(ヴィクトス)の路上へと投げ出された一家は次第に困窮していき、日々の暮らしにも困るようになっていった。
苦境に立たされた父と母は悩み抜いた末、家族全員が生きていくために離れ離れになることを決断。まだ幼い彼と妹は近場の孤児院に引き取られることとなる。
それから数年の月日が流れ、孤児院での暮らしにも慣れたある日のこと。彼の元に想像もしていなかった幸運が舞い込む。
遠くの区画に住むという、子供に恵まれなかった夫婦が孤児院を訪れて自分と妹を引き取りたいと園長に申し出たのだ。
里親が現れたと園長の口から聞いた彼は、心の中で何年かぶりに神へと感謝の祈りを捧げてから自身の部屋へと駆け込むと、いつか来るであろう孤児院を出る日に備えて溜め込んでいた資金を持ち出して妹に上等な服を買ってやり、喜びを分かち合った。

いくつかの手続きを終えて、妹と共に孤児院を旅立つ前日のこと。
孤児院とそこに住む子供たちは、上層(ウィネルス)に住むひとりの富豪が起こした気まぐれによって買い上げられ、商品として扱われることになった。
商品を運ぶためにやってきた大人たちに輸送車へと押し込められた彼は、今の状況に対して怯えるでもなく嘆くでもなく、ただ怒りを感じていた。
その感情は当初、この世界(クピディタス)や不平等、格差などの漠然としたものに向けられていた。しかし、自分を運ぶ大人たちの会話を耳にする内に上層(ウィネルス)というモノにこそ怒りを感じるのだと自覚していく。
自らの欲望を満たすためならば手段を選ばない無自覚な略奪者。それこそが自分から見た上層(ウィネルス)であり、そんな連中がのうのうと幸せそうに生きているのがどうしても許せない。
自らが抱えた怒りとその理由に気づいた瞬間、心の中で燃え盛る業火の中から甘い囁き声のような唄を響かせ、悪魔(サプレス)が姿を現した。

その後、大人たちの手から逃れたものの妹とはぐれた彼は暫くの間、独りで下層(ヴィクトス)を放浪していた。
当てもなくさまよううち、とある教会へと辿り着いた彼は信仰心など薄れていたというのに、自然とその門の先へと足を向ける。
それが彼とレセンティア教会、後の怪盗団の仲間たちとの出会いの切っ掛けだった。

基本的に物静かで、どこかゆったりとした雰囲気を漂わせている。
規律や礼儀と言った秩序を重視する性格であり、孤児院では年下の子供たちの模範となれるよう行動するようにしている。
何かと相性が悪いのか、同メンバーのショロトルとは衝突が多い。
また、過去の経験から上層(ウィネルス)とその住民に対して強い怒りを抱いており、上層(ウィネルス)に関わる人間を相手にしている際は普段の様子からは想像もつかないほどの激情を顕にすることも。

悪魔(サプレス)を宿す原因にもなった強い怒りは、幼い頃に家族と幸福を上層(ウィネルス)によって奪われたと本人が感じているが故に生じたもの。
彼にとって上層(ウィネルス)とは下層(ヴィクトス)の住民から形の有無、価値のあるなしを問わず全てを奪い去っていく存在である。
別に上層(ウィネルス)の住民が幸福を手にすることが気に食わないわけではない。しかし、それが不当な手段で誰かから奪われたものであるならば、正当な所有者の手に渡るべきだ。
そう考えているため犯罪や不道徳な行為を嫌う彼も、上層(ウィネルス)を対象にした義賊行為に積極的に参加している。
また、義賊として活動していれば上層(ウィネルス)に連れて行かれたであろう妹と再会できるかもしれない、という思いもある。

彼は自身の中で燃え盛る感情に身を任せれば、その先にあるものは破滅だけだと理解している。
それでも衝動に抗う事は出来ない。心に宿す悪魔(サプレス)が囁くように唄う復讐(私怨)を否定することは出来ない。
だからこそ、彼は“怪盗団”を必要としている。
怪盗団には守るべき規律があり、尊重する美学があり、背中を預けられる仲間たちが居る。
それらは時に彼の行動を縛る鎖となるが、同時に窮地から救い出す命綱となってくれるからだ。

彼の行動原理であった妹、アンジェリカ。上層のどこかで生きていると信じていた彼女は、ミシェルの覚醒と共に焔の中に消えていた。
その際に彼女が保持していたレネゲイドがサプレス(フェネクス)に取り込まれたことで、彼の悪魔は妹の意識の断片を宿すこととなる。
そして妹は悪魔の内側に居ながらも兄を守るため、直視すれば立ち上がれなくなるであろう記憶に内側から鍵を掛けた。

時を経て3話。内なる悪魔との対話を経て、秘された記憶を開いたミシェルは全てを思い出すに至る。
浮かび上がった過去は彼を打ちのめし後悔と悲しみの渦へと突き落としたが、彼は立ち上がることを選んだ。
今まで紡いできた絆、大切なものの存在が折れそうな心を支え、視線を前へと向けさせたからだ。

呼称：Phenex(フェネクス)
姿形：首の無い猛禽の骸骨。能力を行使すると炎を纏い、巨大な鳥の姿となる。
能力：宿主と自身の再生。傷ついた箇所を内側から吹き上がる炎で焼き払い、元の状態へと巻き戻す。
　　　副次効果として炎を利用して攻撃に活用することも。
衝動：自傷。自らの命が危険に晒されるとしても、怒りの対象に刃を向けることを止められない。
　　　悪魔はただその手助けをするのみ。

彼の心に宿す悪魔。神話や伝承で語られる不死鳥の名を持つが、関連は不明。
基本的には彼に付き従い、力が必要な場面になれば姿を現す。
従順なように見えるが“悪魔”の例に漏れず、彼の抱える怒りや復讐心を肯定し、全てを捨ててでも復讐を果たすように囁く。
口調は穏やかな女性のものであり、その声はどことなく居なくなった妹に似ている……とミシェルは感じている。