平凡な生まれ、普通の暮らし。ある程度裕福でもなければ貧乏でもないはず。父がいて、母がいて、自分がいて、妹がいる。俺はそんな普通の家庭で育った。
　だが、ある日を境に病気になった母の治療費の為に父は借金をし、その返済に明け暮れることになった。
　父がいくら働いても『今月は大目に見てもらう』だけで手一杯だったが、それでも母はその父の働きと借金のおかげで生き長らえていた。

　しかし、年の離れた妹は仕事で家に帰れない父を嫌い、『お母さんが死んじゃうかもしれないのに、どうしてお父さんはお母さんのそばにいてあげないの？』と、焦り、寂しがっていた。
　俺はそんな妹が寝るまでそばに居てやることしかできなかったが、同じような焦りはあった。
　家は普通の家庭だったが、母の病気や借金以外で唯一他の家庭と違うことがあるとしたら、俺たち兄妹は、父が、どんな仕事をしているかを知らない。何度か尋ねてみた事はあるが、『お前たちの日常を守ってる』としか教えてもらえなかった。母に聞いても、『パパはそれでいいの』としか、言わなかった。
　だから、ろくな仕事をしていないと、……思っていた。

　結局、闘病の末に母は死んだ。母の死に目に、父は会えなかった。俺達兄妹が泣き疲れた頃に服ごとボロボロの父がやってきて、母に縋って泣いていた。妹に殴られて泣いていた。俺も妹を止めながら思わず言った。
「あんたの守った日常って、どこだよ」
　今思うと、酷い言葉だったと思う。だけど、父は泣きながら『そうだね』としか答えなかった。

　その後しばらくして、父も死んだ。
　家に数人だけ父と同じスーツの人が来て、父の死を俺と妹に伝えた。『部下を守って死んだ』とだけ聞いた。それ以上は教えてくれなかった。裏で手続きをしてくれた人がいたのか、父の殉職？をきっかけに借金取りは来なくなって、俺達兄妹は祖父母の家に引き取られた。
　そして、成長した妹は母と同じ病気になり、また金が必要になった。祖父母も裕福なわけではないが、自分達の老後を顧みず、彼らはあるだけの金を妹のために出した。それでも足りない。俺が稼いで来ようと思った。だけど、父と同じように借金をして妹を守りたくなかった。
　だから、あるものを売ることにした。お気に入りのトレカ、ちょっとだけ持ってる漫画、思ったより物が少なく、ネットで見つけた明らかに怪しい話にも乗って心を売った。もっといい稼ぎがあるよと言われ体も売った。内蔵を売った時、手術中に俺は死んだらしいが、執刀した闇医者曰く『覚醒したから大丈夫』、だとか。ある程度そいつから説明を受けたが、何が大丈夫なんだよ、と思った。今は闇医者お手製のポンコツ機械で身体の中を埋めている。

　しかし、ある日、客が昔自分を助けたヒーローの話をしてくれた。どうやら、とある男に命を救われたらしい。
　他にも何人も救われた、命の恩人だ、皆の日常を守ってた、本当にすごい人がいたんだ！と俺の首を絞めながら教えてくれた。あんただけ何かの手違いで死ねばよかったのに。息継ぎの際に言おうと思って、カウンターを食らう。
『君にとてもよく似てた。親戚？いや、お父さん？若いね？息子がこんな事してて恥ずかしくないのかな？』

　そこからの事はあまり覚えていない。妹の為に死ぬ気で稼いだつもりだった。父なんてとっくに超えているつもりだった。
　だって、俺は借金がないどころか、稼いだ額は父の何倍もある。妹も安定して治療ができ薬が飲めたおかげで退院も間近だ。
　なのに、何でだろう、どこで止まるべきだったのだろう？父と自分を比べる度に、誰かや自分を傷つけることでしか稼ぐ方法を知らない自分が猛烈に恥ずかしくなり、同時に……母の最期の父への言葉を思い出す。
『パパはこれでいーの。わたし、みんなを守る、パパが好きだから』
　俺はたとえ妹の命を救えたとしても、似たようなことは言われないだろう。そう思うと、自分という存在に嫌悪感が迸った。同時に、男という存在に微弱ながら恐怖を感じるようになった。
　だって、これから先俺は、父と言う、一番身近で偉大な男の影に怯えて生きなければいけないのだから。
　比べれば比べるほど、あの日父に言い放った言葉が自分に返ってくる。

「……俺の守った日常って、どこだよ」

継ぎ接ぎのテセウスアッサンブラージュ
作為的に上書き保存された 無垢色キャンパス
インクが滴り染まった心は 数多の鑑賞者により枝分かつ可能性を示す　

ダブルクロス The 3rd Edition 「Mir Rorschach wiederholte es x Mal.」 ダブルクロス― それは裏切りを意味する言葉

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全員同陣営　
HO2のロイス”Butterfly Mortician”を理由を問わず（怨嗟、金銭目的など自由）捕まえるという目標がある。
事務所の雰囲気はある程度倫理観を伴っていれば自由に作って頂いて可。

ストーリーの都合上、NPCを所属或いは保護することとなるため、閉鎖的な事務所はNG。

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HO1　カヴァー/ワークス　高校生 兼 事務所見習い/自由

ロイス　とある神社で出会った少女
HO2の事務所に見習いとして所属しているあなたは、現在高校1年生である。
あなたは小学３年生の頃から、とある神社を遊び場としていた。
その際に出会った少女は、聞く所によるとこの神社の巫女らしく、曰く「この神社は時を司る神様が祭られている」だとか、曰く「巫女は代々、能力に目覚め人々を導く役目を持つ」だとか。
神社に遊びに来る同世代の子供が珍しかったらしく、少女は貴方に対して、とても良くしてくれていた。
あなたが中学校へと入学する時期に差し掛かった際、少女は貴方に入院することを打ち明けた。同時に、これから会えることもなくなるだろうとも。
入院する病院は、山奥の郊外にある車でしか行けないような場所らしく、症状的にも無暗に病院から外出すること、面会することも難しいらしい。
小学生最後の日、少女とのお別れ会を終え。別れを告げ、あなたは中学生になった。

そして現在、あなたはある日任務で負傷してしまい、少しの間裏の病院に入院することになった。
そして思い出した。別れの際に少女が言っていた言葉。ここは少女が入院している病院だと。
あの日の少女ともう一度会うために、あなたは病院内を散策することとした。

HO2　カヴァー/ワークス　事務所長/自由

ロイス　”Butterfly Mortician”
あなたは、細々とした任務をこなしながら、”Butterfly Mortician”を追う個人事務所を運営している代表である。
あなたが追っている”Butterfly Mortician”は表では優良な医者で名を馳せているが、現在進行形に裏で非人道的なクローン技術による実験を行っているジャームであると推測される。
各組織から多額の懸賞金もかけられているが、未だに尻尾を掴ませておらず、様々な組織が手を焼いている状態にある。

HO3　カヴァー/ワークス　事務所エージェント/自由

ロイス　情報提供者の少女
あなたはHO2の事務所に所属しているエージェントである。
ロイスの少女は、あなたがとある事件を調査している最中に出会った。
あなたは事件に関係するとある実験施設で非人道的な扱いを受けていた少女を救いだし、衣食住を支給する代わりに、知りうる情報を提供するよう呼びかけた。はじめのうち、少女は自身の身に危険が及ぶことを憚り口を噤んでいたが、あなたの事件解決への熱意に負け知りうる情報をすべて話してくれた。
外の世界を見たことのない少女の眼にはすべてが新鮮に映り、あなたを電話で呼び出しては、様々な場所へと巡っていた。
しかしながら、幸せな時間は長く続かなかった。事件解決まであと一歩まで辿り着いた際に、少女から着信が届く。その日に少女との約束はなく、事件解決も目前だったため、後での連絡を決め携帯を直した。
その後無事事件の実行犯を捉えることができ、安心した束の間。少女へと連絡を行ったが、返事がなかった。急いで少女の住む在宅に戻るとそこには、あなたに対して感謝をつづった手紙を握りしめ、息絶えている少女の亡骸があった。
この事件は君の胸に大きなしこりを残すこととなる。
残念ながら事件の黒幕は捉えることが出来なかったが、実行犯を捉えるまで至ったのは少女の情報あっての賜物だろう。

事件から何年も経ったある日、君は一人の少女を街で見かけて息をのむ。まるであの日の少女とともう一度会ったかのように感じるほど、その少女はあの日の少女と、そっくり瓜二つな見た目をしていたから。