第一次レネゲイドウォーの際、政治的権力者を父に持つ彼女は家族で森の中にあるセーフハウスへ避難していた
しかしある時、森を探検している最中に迷ってしまい、そこで見つけたのが黄金のキーリングだった。鍵が三本括られているそれに触ると、強い頭痛と共に力を感じた。即ち、感染したのだ

いつしかレネゲイドウォーは収束し、代わりにヒーローという存在が大きく膨張し始める、そしてそれは、悪意も同様だった
ヴィランと、今にも蹂躙されそうな同級生達がいた。自分に何も出来なくとも、ただ立ち竦むだけで在りたくなかったのは、レネゲイドウォー時震えていただけの自分を認めなくなかったからだろう
ヴィランに向かって走り出した時、自分のカバンが光り出した
次の瞬間、翼を携えた黒狼が彼女、そしてヴィランの前に現れる
命を奪わず、然してそれ以外の全てを奪い尽くした後、狼王ロボだった
ここが彼女の特異点であり、狼王にヒーローとして生きる道を教わる初めの一歩である

中学校に通いながら、狼王に師事を受け、若年でありながら狼王のサイドキックとして一時期活動した
その間、黒狼は彼女に懐くことなく、指示も従わずに狼王に懐いていた
中学を卒業して間もない頃、彼女の同級生がジャームとして街で暴れ始めた。もっとも、力を持った中学生がヴィランとなった扱いだが。そして、その事件において、彼女のヴィラン打倒は黒狼や狼王よりも早かった

それ以来、黒狼は彼女に従属し、程なくして単独のヒーロー活動を始める

狼王に手ほどきを受け、自分の事務所と立場を作り、サイドキックの経験から初活動でヴィランを被害無しで確保した。その時に報じられた
それからヒーロー活動は軌道に乗っていき、アプローチの一環であるマジシャンとしての活動も良好だった時、試すように鍵が再び光り出す。それまで反応のなかったその鍵に触れると、純白の翼を持つ鷹がその場に現れた
新たな力の発生に酷く戸惑ったが、そんな一面は一切世間に出さず、秘密裏に白鷹と関わっていた
不遜で高潔で勇敢な黒狼とは違い、白鷹は謙虚で消極的で臆病だった。正直なところ、そんな子を戦闘に参加させメディアに見せるのはリスクリターンがあっていないと考えていた。
しかし、とあるヴィランとの戦闘で白鷹を不意に呼び出してしまった。勿論新たな使い魔にファンの中で騒然とし、その騒ぎに答えを出さなくてはならない状況になった。選んだのは、修行中の使い魔という設定で実践に出す方法だった
事は上手く運ばず、白鷹を守りながら戦闘するうちにヴィランには弱点だと認識され、守り切れない程白鷹に攻撃を放たれた。飛行できず、緩やかに落下する彼女の前に立ちふさがったのは――白く輝く白鷹だった
黒狼は悪を打ち破る力として、白鷹は善を守る力として彼女に宿っていたことを知る。志は同じだと知ってからは、白鷹への指導も上手くいき、今となっては頼れる同胞として在る

いつか強大な試練が現れるだろう、だとしても、ヒーロー《幻獣師》は華々しく活動を続けている

《浅野友香》を奥へ隠しながら
笑顔を忘れ、全てに厳しくなっていった父親
家族を忘れ、全てに哀しくなっていった母親
真実(父親)も虚構(母親)も全て隠して、隠し通して《浅野友香》は魔法使い《幻獣師》として生きるつもりだ
そこに限界があった時が、魔法使いの死だと決めて

狼王には沢山の事を教えてもらった
力の扱い方や、ヒーロー活動のこと等
そして、今の人格に至るまでの事も

当時、自分の意思や感情を伝える事が酷く苦手だった彼女に、狼王は笑顔であれ、と教えた
当時、自分の未来を漠然と据えていただけの彼女に、成りたいものを強く目指せ、と教えた
当時、黒狼を御することが出来ず、足を引っ張るサイドキックと言われ、焦燥を覚えた時には「誰が為に生きろ」と説いた。これは、今までの教えで最も彼女の心に残っている

決してパラディンのように完全無欠ではなくとも、浅野友香にとって最上のヒーローだった。そしてそれは使役されるはずの黒狼も同様だった
黒狼は呼び出せば忽ち狼王のみに献身し、浅野が指示を出せば絶対にそれだけはやらない、と強く狼王に懐いていた

尤も、とある事件をきっかけに、浅野友香が狼王ではなく自分が人を救うと心を決めた時、黒狼はその道に着いていったが

独立してからはあまり表で接することはなくなったが、オフではまぁまぁな頻度で会っている

尚、狼王に後述する家庭環境は伝えておらず、父親が政治権力者ということしか知らないと浅野友香は思っている

彼女の家は強い存在感を放つ政治家の父を有するが、母親もまた、インフルエンサーとして優秀なマジシャンだった。SNS、動画サイトではかなりの影響力を持っていた
当時の父親はそこに目を付け、政略結婚さながらに妻として娶った。

仲睦まじい夫婦として見られてた一方、家庭環境はそこまで良くなかった。頭が硬く理論的な父親と、能天気で感覚派な母親のソリが合わないのは妥当だろう
それでも、夫婦は友香を出産、母親が活動を休止して育てることになった。子育てに参加しない父親が発端になり、家族仲は段々と悪くなっていく

それは、後に第一次レネゲイドウォーと称された

突如世界に裏切られた政治界は混乱に陥り、父親の活動は迷走していく
母親は家族を愛し続けたが、父親は全てを律し続けた
母親は幾度も父親に笑顔を分けようと尽力したが、父親は一度も笑顔を見せはしなかった

母親は段々と、蝕まれるように感情を忘れていく


この話に浅野友香はいない
彼女は傍観者で在り続けてしまったからだ


過激であり正しい思想の政治家
凪の中で孤独を享受する被害者
大衆の為に自分を全て隠したヒーロー

家族という名目の、他人である