コツ、コツ、と長い階段を降りてくる音が響いてくる。
連絡なら電話、口頭での伝達でも座標を登録している転移能力持ちのエージェントにでもやらせればいい。
迷い人か侵入者か、それにしては足音がはっきりしている。そもそも一応ここはUGNの施設だ。そう簡単に入れはしない。
それならば残る可能性は。

読んでいた本から目を離し小さなため息をつく。
「はぁ…。後見人なんて面倒事、さらに師匠だなんてもっと面倒な事するガラじゃないのだけどもねぇ…。まぁアイツのたっての頼みを無下にするわけにもいかないかぁ…。」
手元の“鍵の書”のページを開く。
「鍵角の兜虫。」短く召喚詠唱を唱え魔法陣を創る。
魔法陣から現れた奇妙な角のカブトムシが図書館の扉に向かって飛んでいき角で扉を解錠した。
そのまま読んでいた本に再び目を戻す。このエイボンの書も偽物、せいぜい読んだ人間を狂わせるくらい。原本の知識などどこにも無い。そのままソファの脇の机に乗せる、書物の塔がそこにはあった。


扉をノックする音が聞こえる、しばらくしたら施錠されていないことに気づいたのか「失礼します。」の声と共に一人の子供が現れた。ああ、やっぱりアイツにそっくりだ。
緊張して立ちすくむ子供に気だるげに声をかける。
「机の片付け、本の整理。それが終わったら紅茶を淹れてちょうだい。今の気分はアールグレイね。キッチンはそこの北欧神話関連の本棚の裏よ。制限時間は初回で特別に20分あげるわ。話はそれからよ。」


この日から私は「師匠」と呼ばれるようになった。

三支部合同での捜査任務に参加、虹房支部の輝尚人と百鬼新、見宇支部の穂積雪都と高千穂楓、それと自身の支部“the F.A.LL”の佐々木沙久と共に死亡したエージェントの残した物の捜索に当たった。途中で各支部の部下たちが洗脳された際には沙久がこちらに敵意を向けてきたのを面白がって記念写真を撮ったりしていたが内心可愛い弟子を洗脳されたことにブチ切れていた。沙久たちの洗脳が解除されたあとは敵を花火にしてやろうと意気込み珍しく積極的に動いていた。（当社比）
途中穂積雪都が拉致された時は一時的にまとめ役も担当し他支部メンバーと沙久と共にFHエージェント達を花火として打ち上げた。

事件後は沙久の新たな趣味嗜好に多少驚きつつも弟子の成長として受け入れている。

何故かまわってきた支部の休暇案件に多少の疑問を抱きつつも最近変な様子を見せていた沙久ちゃんの休暇になるかもと思いともにキャンプ場に向かった。キャンプ場で他のオーヴァードと交流する沙久ちゃんを見守りながら同じキャンプ場に来ていた穂積雪都の相談にも乗ったりしていた。
キャンプ場でレネゲイド関連の事件が発生していると分かると怪異現象を気にも留めず鎮圧に向かった。
解決後は改めて沙久ちゃんの分も含めて休暇を申請したようだ。今度こそはゆっくりできるといいね。