「特務処理班“クリスタル・ナイフ”……ですか？」

支部の中庭にて昼寝をしていた猫田は自身に声を掛けてきた赤い髪の青年の言葉に眠い目を擦りながら返す。

「エデンでの活躍を聞いてってところですよね？
でもしょーこはちっともすごくないんですよ
レネゲイドコントロールが優れてるっていうのも尻尾とかヒレとかがいーっぱいついちゃっただけなんですからね」

「まあまあ、簡単なテストに受かればいいだけだし、割のいいバイトみたいなもんだよ」

「うーん……しょーこは頭が良くないので難しいことはわかんないですよ？」

「ものは試しってやつでさ」

赤色の青年は懐から1枚の写真を取り出す

「この写真のやつ、見覚えあるよな？」

「………」

「こいつFHに情報流してやがったすっげえ悪い奴でさあ
取り引きがあるってんで一網打尽にしてやろうって思ったら、突然バカでかい魚が来て全員丸呑み。
ジャームかと思ったんだけど、そいつ俺には目もくれずに空に飛んで逃げちまったんだよなあ」

笑い話でも語るような口振りで、さも可笑しそうに青年はケラケラと笑う。

「あれ、お前だろ」

相対する猫田は変わらない笑顔のまま、しかし獣じみた鋭さで青年を捉えていた。

「……何故、そう思ったんですか？」

「なぁに、俺もタダで逃がしてやる気なんてなくってさ。そいつの顔に一撃入れてやったんだよ」

赤髪の青年が猫田の頬に貼られたテープに指先を向けるとその下からパリ、と赤色のプラズマが走る。

猫田が頬に貼られたテープを剥がせば治りきらず血の滲んだ傷口から根にも似た雷紋が広がっていた。

「『マーキング』ですか。どおりで治りが遅いと思いました」

言い逃れはできないと判断したからか、猫田はその顔から笑みを消す。ガラスめいた無機質な瞳が黒に反転し圧縮された魔眼の牙を鳴らすような音が周囲を軋ませた。
そんな殺気立つ猫田に赤髪の青年は軽く肩をすくませると持っていた写真で猫田の額をぺし、と叩いた

「だぁから最初から言ってるだろ、勧誘だって」

意表を突かれた猫田はぱちくりとその目を瞬かせる。

「これって……」

「こっちが本命のテスト」　

写真の裏に書かれていたのは一見すると何のことはない食材のメモ。
しかしそれは猫田が集めた情報をまとめる際に使っている符丁に合わせて書かれたとある場所の座標だった。

自身の符丁まで見抜かれていたことに驚きを隠せない様子の猫田の頬に青年は触れる。
跡もなく消えた傷に青年はふ、と笑うと用は済んだとばかりに踵を返す。

「こっちにくる気があるんなら、また会おうぜ“おさかなちゃん”」

ひらひらと手を降って立ち去る青年の後ろ姿を猫田はただ呆然と見つめていた。

２人が再会するまで、あと数時間。

かつて幼馴染の出雲優翔とはバディを組んでおり、彼を守り導くことが使命だった。
しかし2年前の災厄で彼を守れず、存在そのものが消えかける事態にまでなったことを理由にアサヒ先輩によってバディを解消させられる。

それからは優翔にもう危険なことがないように、見回りや治安維持活動に努めていた。

パートナーとしてトアと一緒に活動していたが、トアは猫田に伝えることなく単独で記憶の塔に向かい、そしてアサヒに攻撃を受ける。
そのことを隠したまま最期が訪れるのを目の当たりにした猫田はトアから自身の力不足のせいで彼女から信頼されていなかったことに傷つき「生まれ変わって信頼されるような自分になれたなら、会いに行く」と約束をした

優翔が再び自身を犠牲にしようとしていたことにトアが自分に何も伝えずに消えてしまったこともあり激昂し優翔と口論になる。

その中で優翔に言われた言葉により今ここにいる優翔が自身のバディだった彼ではないこと、そして自身もまたアサヒとの思い出と抱いていた恋心を喪っており彼のことが好きだった自分がどこにもいないことに気づき、ようやく自身とバディを組んでいた優翔がもうどこにも存在しないことを理解した。

エデンから帰ってきた猫田はトアと再会し、弱さゆえに信頼されなかった猫田硝子ではなく、はじめましての猫田硝子としてバディを組む。

しょーこはがんばります！今度こそ、喪わないために

爆弾を解除し爆弾魔をしばき倒した頃には朝日が昇っていた……。
UGNエージェントの山崎にレクリエーションチケットを貰い今度こそと食事に向かうも春日恭二やマスターレイスたちの妨害を受け続け朝食、昼食、おやつと一向に食事にありつけない。
連続空腹時間が24時間を超えて挙動がおかしくなっていた猫田と悠はついに羽毛布団を食べようとするもそれすらも妨害されてしまう。

レクリエーションチケットの不幸の噂から生まれたレネゲイドビーイングの山崎こそがこの最悪な一日を引き起こした正体であったことを突き止めた2人は山崎と対峙する。

人間たちに不幸を呼び寄せるチケットと噂されたことにより本来のエージェントたちに幸せになってほしいという願いを歪められてしまった山崎
そんな山崎に対し、猫田はそんな噂など関係なく自分はレクリエーションチケットを手にして嬉しかったこと、自分にとっては間違いなく幸運のチケットだったことを伝えて彼を撃破する。

それから猫田の懐には使おうともいつの間にか帰ってくる1枚のレクリエーションチケットが仕舞われている。
猫田にとっての幸運のチケットとして、彼はいつでも傍にいる。

猫田さん、貴女に幸運を