月は気まぐれ

「あの女の近くにいると、身体が重くなったり軽くなったり気まぐれだ。荷運びの時に重くするのはやめてほしいもんだ」
――貴嶋ワイナリーの従業員

その月の重力は気まぐれだ、とワイナリーに勤めるものは皆口を揃えて言う。
「なんでもワインをあり得ない短期間で熟成させる為には必要だとか……」
「けど、時間を弄るだけならそんなに重力を動かす必要はないって聞くぞ？」
「でもあの人のお陰で稼いでるからなぁ、うち。彼女の気まぐれには迂闊に文句言えないんだよな……」

経歴

フリーランスのオーヴァードを対象とした斡旋所、ワイルドホーセスからの依頼を中心に引き受けるイリーガル。
仕事の選び方は「そこに兄さまがいる可能性があるか否か」、ただそれだけ。
彼女にとってそうであると思える依頼であれば、危険の多い仕事であっても躊躇いなく引き受ける。
その言動や行動理念から、彼女を知る他のイリーガルからは変わり者だと捉えられている。
「変わり者っていうか、正直ちょっとネジが飛んでるっていうか……ねぇ？」
「兄さま兄さまって言ってるけど、どんなやつか全然わかんねーんだよな」

カヴァー

貴嶋ワイナリーの醸造家。ワイナリーの経営者、貴嶋 藤也(きしま-とうや)はオーヴァードであり、同じオーヴァードを中心に雇用している。一般人も混じっているが、いずれもオーヴァードに理解のある人材。
オーヴァードがその力を活かして働ける場であると同時に、極力日常の仕事を気に留めずににオーヴァードとしての仕事に励んでもらう為の場。
元は小さなワイナリーだったが、蘭珠のバロールとしての能力に目を付け、本来ならあり得ない短期間で熟成ワインを作り上げ、それらを不審がられぬよう適切な量と流通先のコントロールを行うことで財を得て、今の規模へと拡大した。現在ではその筋でそれなりに有名なワイナリーの一つとなった。

関係者

【“兄さま”】
本名不詳、年齢、容姿、その他諸々、不明。ことあるごとに兄さまと口にするが、その正体については不透明だ。そもそも本当に兄妹なのかすらもわからない。けれど彼女はただ、その人を“兄さま”とだけ呼ぶ。
覚えていないのだと女は言う。そもそも、兄さまと呼ばれる人が本当にいるのかどうか――ロイスとして形を結ぶ程のものがある以上、相応の感情を伴う存在として彼女の中に刻まれているのは確かなのだろうが。


【貴嶋 藤也】
32歳。ワイナリー経営者。元々父が経営していたのを引き継いでまだ浅い若社長。
若いながらもその経営手腕は高く、今の規模にまでワイナリーを拡張した。
蘭珠のバロールとしての能力を評価しており、主に醸造過程の短縮を彼女に任せている。


【神楽 幹靖】
ワイルドホーセスの代表。仕事の斡旋などでよく世話になる人。

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