容姿・経歴・その他メモ

「どうしてそこまで、って？　あんたは自分の内臓に、好きとか嫌いとか思うのか」

生まれつき鼠色の髪を持って生まれたせいなのか、物心ついた頃には親は無く、親戚の家を盥回しにされていた。
人嫌いというよりは、他人に対して興味があまりない。勿論それは、周りに興味を向けられなかったせいでもあるけれど。
その中で唯一心を許したのが幼馴染の少女だったが、彼女と共にジャームに襲われ、賢者の石に適合することで一命を取り留めた、らしい。
それ以降、幼馴染とは会えず、死んだと聞かされたけれど、信じることも忘れることも出来なかった。
この感情が、執着なのか願望なのか、もう彼自身にもよく解っていない。
ただ、彼女のことを忘れると、自分が自分で無くなってしまいそうだった。

色素の薄いもやしっ子高校生。生き別れ（死に別れ？）した幼馴染に対する執着が酷い。
死亡したと聞かされても全く信じておらず、只管彼女のことを調べ続けている。
レネゲイドウィルスによって発達し続ける彼の頭脳は、たった一つの真実を告げてくるにも関わらず。

そんな彼の執念は、漸く僅かながら実を結んだ。
面影島という島を映した風景写真に、正しく自分が思い描いた、成長した彼女の姿を見つけたのだ。
次の瞬間、彼は島への移住および転校手続きを、最速で済ませていた。

「おまえのことをおれは絶対忘れない。忘れてなんてやるものか」


何故彼はここまで、傷無を探し続けているのか。彼女はもう死んでいると解っているのに、何故か。
面影島で神無に出会い、キズナとも出会い、彼は気づいてしまった。自分では、六白傷無の存在証明がもう出来ないということを。
掠れて穴だらけになった自分の記憶だけでは、たとえ彼女が生きていたとしても、生き返ったとしても、それを六白傷無であると証明することが出来ない。確証を持つことが出来ない。断定を決意することが出来ない。

六白神無をニセモノだと言えない。キズナのこともニセモノだと言えない。
だから、探し続けるしかない。もうこの世界にはいないたったひとりを。

頭が良すぎるから幸福を感じ取れなくなった、ミスター・アルジャーノン。
貰った花の指輪は、とうの昔に枯れてしまった。



彼は蘇りを許せない。何故ならそれは、もうその相手ではないと断言出来るからだ。
この島で蘇った者達には、自分が死んだという記憶がない。
そして蘇った者は、嘗てていた筈の大切な人の記憶も、消し去られてしまうことすらある。
そんなことが許されていいものか。己の中に在る記憶は、彼の唯一のよすがなのだから。
それを他者の勝手で奪われることを、許すことなど出来る筈が無い。

……だが同時に、それは今この世界に在る彼女の痕跡を、全て消し去ることになる。
つまりそれは、どうしようもなく、今まで目を逸らし続けてきた「六白傷無の死」を受け入れることに他ならない。

「ごめん。それでもおれは、この『黄泉返り』を許せない」


Sロイス「六白傷無」を昇華。記憶の中の彼女は、脳髄の中で弾けて消えた。



六白神無と、六白霧人。彼らの事を、それなりに信用してはいたのだ。
傷無と名乗った少女と、過去の面影を残した彼女の兄。もう記憶が擦り切れていた中、よすがとなれるものだった。

だがそれは裏切られた。突き付けられた。彼女は傷無ではないと。

今まで、この島で慰撫されていた怒りが、久々に沸き起こった。
もう、忘れかけてしまっているけれど、彼女も、彼も、笑って他人の命を奪うようなものでは無かったはずだ。
理不尽な死が、全てを狂わせたと、達観してしまうことはまだできなかった。

「ああ。何度でも言ってやる。……おまえは、傷無じゃない」

許せなかった、許せなかった、けれど。

「……ごめん」

最期に耳元で告げた言葉が、六白神無という少女に届けばいいと、勝手に思った。


×××


随分と、回り道を歩いた。
随分と、迷い道を歩いた。
果たして自分が何を欲しているのかすら、解らなくなるぐらい。

自分の理解に嘘を吐いて、目を逸らした無知なる獣（アルジャーノン）。

もう二度と誰かに、花を貰うことなんて。


『作れるようになったよ』

ふぁさりと、頭に乗せられた、黄色い花の冠。
懐かしい――懐かしいと感じ取れたその、偽りなき自分の気持ちに、涙が溢れた。


「ありがとう。……これで、俺はずっと、生きていける」



×××


この世で大切なものはひとつしかなかった。だから、世界がどうなろうと興味はない。
ただ、自分はやっと、大切なものを取り戻せた。
ずっと死にたかったけれど、生きたいと思えた。
だから、だから――


「大丈夫だ。絶対に忘れない」


思い出さえあれば、きっと、世界はもう少し優しくなれるはずだ。

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