履歴
数百年前に存在したとある王国。その国には異名を付けられた王国屈指の強さを持つ4人の騎士が存在した。紅玉の騎士ライン。翡翠の騎士ヨセフ。蒼穹の騎士カール。そして灰壊の騎士。それがあなただった。
あなたは、
王国の騎士の中で騎士道を重んじる誠の騎士と目指すものだった。
だがある日、隣国である帝国が侵略を宣言し、戦争を始めた。
もちろんこの王国も侵略の範囲内だった。
あなたは守るべき王国が侵略されるのをよく思えなかった。
そのためあなたは王国を守る盾ではなく、帝国を退ける矛として最前線を行くことを志願した。
王国直属の騎士であった彼が、王国を守ることではなく帝国を退けるためだったのは王国側も理解ができた。
だが王国直属というのは、王国を守るために用意された最高の盾である。
その盾が、前線に行くというのは王としても王国に住まう大臣たちにも許されるものではなかった。
しかし、「いいでしょう、私たちの国を守るために矛として帝国を退けてみせよ。」
と王...いや、王女はそう告げた。
そしてあなたは、最前線に身を投げた。
いくつもの死戦、おなじ民を思い戦う兵士たち。
お互いがお互い正義を信じ戦うこの戦場は見慣れた風景だった。
王国直属になる前は血が滲むような訓練、そして死体だけが山のように上がる戦場
彼からしたら懐かしい戦場だった、なぜならそこには強き者どうしが己の最高を出し合い殺し合うこの戦場が。
騎士道を重んじる彼も本物の彼だが、戦場で闘争に明け暮れる彼もまた彼自身を象る。
彼という騎士の本質そのもであった。
だが彼が欲望のままに戦い、退けるはずだった帝国に進撃をしようとしたその日、王国が落ちた。
意味がわからなかった
なぜ退け、攻めていたはずの王国がなぜ落ちたのか。
彼は走った。
数十キロの道をその巨体で走った。
まるで大地を揺るがし、空気が震えるように彼は、守るべき王国に向かった。
時間はさほどかからなかった。
数十キロの道は彼からしたら散歩をする程度の距離だった。
だが、王国に着いた彼は己の目を疑った。
王国の中心に佇む国の象徴である白銀に輝く城は、真っ赤な炎に巻かれ、ところどころが砕けもはやいままでの城の形は
もはやそこにはなかった。
彼は王国の城に向かった、道を占拠していた敵は道端の草を払うように切り伏せ。
彼は王国の宮殿着いた。
宮殿に入るとそこには、王国の守護を目的として集められた。
彼と同じ王国直属の騎士たち3人が王国を収める王に刃を向けていた。
いったい何が起きているのか、彼らはなぜ自分が使える王に向けて刃を向けているのか彼は理解ができなかった。
開かれた扉に3人の騎士は目を向けた、いくつもの戦を見てきた彼なら気づいただろう。
彼らの目には復讐や憎悪、化物に向けた瞳とは逆の虚ろな瞳を向かせていた。
そのあとは、人生の中で最高で最悪の殺し合いだった。
王国最強の3人が全員が彼に虚ろな動きで、己の獲物を振りかざした。
戦闘はすぐ終わった、たとえ王国最強の3人といえど己を極め、”能力”をも極めた化物には勝てる要素などひとつもなかった。
三つの死体をあとに彼は玉座に座る王女の前に向かったが、向かう途中に彼は異常ないや自分と似た空気を感じた。
「誰だ、玉座の後ろに隠れてないで出てきたらどうだ。」
そう彼が言うと玉座の後ろから女性が現れた。
「あら気づかれちゃったわ、可笑しいわね。私って隠れるの結構得なのよ。」
そう言いながらどこか怪しげな雰囲気を漂わせる黒髪の女性がこちらを向き微笑んでいた。
「貴様は誰だ。」
「私の名前はレイス・シース、気軽に「操り蛇(パペットスネーク)」って読んでね。」
名を名乗ると彼女は玉座に座る王女に手を伸ばした。
「この子はね、いまはもう私のお人形さん、この髪もこの顔もこの瞳も全部が私のもの♪」
そういいながら髪を撫で、肌を擦る。
しかし玉座に座る少女は何一つも反応を示さないそれどころか、虚ろな瞳がこちらを見ていた。
「貴様、姫にいったい何をした!!」
彼が怒鳴ると同時に空気が震えた、その瞳に殺意を込めて。
「さっきも言ったけど、私の操り人形になってもらっただけよ。
そういえばあなたはいいの?お仲間だったんでしょ?」
後方に倒れる三つの死体に視線をむけ、すぐに彼に向き直る。
「そうだな、戦友を手にかけるというものはあまり気持ちのいいものではないが...操られる奴らなど所詮そんなものだ。」
戦友だったものに視線をわずかに向けそう吐き捨てた。
彼は心優しい戦士だ...だからこそ冷徹で孤独に飲まれながらも、民には優しく、敵には容赦しない...『化物』だ。
「じゃあ、このお姫様もあなたと敵対すれば、容赦なく殺すのかしら?」
彼女は彼が吐き捨てた言葉を聞き楽しそうに質問する。
その質問を問うや否や、玉座に座っていた少女は、どこからか出した至る所に装飾品がついた儀式用の剣を持ち彼に向けた。
「姫...?」
彼はひどく驚き困惑する。
今まで信頼し、仕えてきた王に剣を向けられるなど、彼からしたら決してありえないことなのだから。
「うふふふ...ひどく困惑してようだけど...私、最初に言ったわよ?
この子は私のお人形さん、生かすも殺すも愛でるも私の自由なのよ♪」
そう微笑みながら彼を見る。
しかし、そこに彼は居なかった。
それもそのはず、彼はもうすでに彼女...レイス・シースの後ろにいたのだから。
そのことに気づく前に、彼は自分の手に持つ剣を振り下ろす。
「...え?」
迷い無き斬撃。美しいその太刀筋は、先ほどまで愉悦に浸っていた蛇が声を出すのと同時に、上半身が真っ二つとなった。
諸悪の根源である彼女が息絶えると、先程まで力なく剣を持って立っていた王女は力なく剣を落とし、力なく倒れた。
「姫っ!!」
彼はすぐに王女を抱えた。
「...あれ...■■■■■■? おぬしはたしか...最前線にいたはず...」
王女はすぐに目を覚まし、彼に話しかける。
催眠から解放された少女はフラフラと彼から離れ、一人で立つ。
そしてぼやけた頭を振り、我に返ったような素振りを見せ、彼に振り向く。
「■■■■■■、無事だったのだな。ところで妾を守るためにいた他の騎士たちはどこにおる?」
先ほどまでの記憶が無いのか、現状を把握するために彼の左右を見回す。
「姫...ほかの騎士たちはあなたの後ろにいます。」
そう言い、彼は三人の死体が並ぶ少女の後ろを指した。
「そうか!! 皆も無事なのだな。よかっt...」
騎士たちが無事だと思い、喜びながら後ろに向いた王女の目には、信頼し、信頼された王国最強の騎士たちだった亡骸が無残に転がっている惨状が映り、顔を真っ青に変える。
「こ...これは...一体、何が起きたのだ...」
恐怖のあまり、後ずさりする。だが、固くゴツゴツしたものによってその行動は阻まれてしまう。
確認するように振り返ると、そこには王国騎士、最後の生き残りである灰色のフルアーマープレートに身を包んだ騎士。
彼のフェイスガードの隙間から見える赤い光が、まるでこちらを見つめるように光る。
「■■■■■■、これは一体なにが起きたのだ!? どうしておぬし以外の騎士たちがあんな無残に...」
灰色の鎧に手をあて、真っ青な顔でこちらを見つめる。
もう信頼して頼れるものは目の前の騎士ただ一人のみ。
残された希望にすがるように見つめる少女の気持ちを汲み取らず...彼はひどく残酷な言葉を発した。
「...彼らは、私が殺しました。」
そう告げた瞬間、今も燃え続ける炎さえも止まったように感じるほどの虚無が少女を襲う。
「■...■■■■■■...どうして? どうして、そんなことを...」
解離する記憶。進軍していたはずの騎士が仲間の騎士を殺し、何食わぬ顔で目の前に立っている。
それは信頼していた者からの裏切り。そう感じ取ってもおかしくない状況だった。
「■■■■■■、おぬしは祖国であるこの王国を裏切り、帝国に寝返った...そういうことなのか...」
確認するように...もし敵だったことを考え、少女は足元に落ちていた剣を持ち上げ、目の前の灰色の騎士へ向ける。
「お言葉ですが、姫。生まれてこの方、この国に対する忠義。そしてあなたへの忠誠を捨てた覚えはありません。
帝国への寝返りなど、そのような行動を起こすものなら...この灰の騎士。自ら首を切り落とす所存です。」
彼は、疑心暗鬼になっている少女の前に跪き、頭を上げずにそう告げる。
「では、なぜ殺した!貴様の戦友を...我が精鋭をなぜ殺した!!」
少女は怒り、目の前に跪く灰色の騎士の首に自分が持つ儀式用の装飾品だらけの剣を当て、怒鳴る。
「...彼らは曲者に操られていたようで、先に剣を向け、襲ってきました。
腕や足を折り、行動力や戦意の喪失を試みましたが、虚しくも失敗に終わり。仕方なく手をかけた所存です。」
彼は冷酷に淡々と言葉をならべる。
「なら、そのようなことを起こした、無礼者を差し出せ!! そのような輩...今ここで首をはねてやる!!」
少女の怒りは収まらず、三人の騎士を操り、同士討ちをさせた者の首を斬ろうとする少女に灰色の騎士は答える。
「すみませんが姫様。その輩は私がたった今、切り伏せたそこの死体でございます。」
そう言い、すぐ横に倒れているレイス・シースの死体へ視線を向ける。
少女が騎士の視線が向く場所を見ると、そこには頭部から腹部までをパックリと裂かれた黒髪の女性の無残な死体が無造作に倒れていた。
それを見た少女はまるで道端に転がる糞を見るような侮蔑の視線を向け、すぐに騎士の方に向き直った。
「では、貴様がこの状況に終止符を打ったのだな?」
少女は確認をするように目の前の騎士に問いかけた。
「はい。」
騎士がそう答えると、先程まで冷徹な表情をした少女は少し表情が緩んだ。
「そうか...では、顔をあげよ」
その言葉を告げると、目の前の騎士は立ち上がった。
騎士は何もいわず、ただ己が仕える少女を見ていた。
「...そう、あまりジロジロ見るでない。
さっきは強く言ってしまったのは謝る...状況が全く掴めなかったのでな...つい、厳しくあたってしまった。」
少し冷静になったのか、少女は申し訳なさそうな表情をしていた。
「いえ、私は別に怒ってはおりません。
それどころか、このような状況でも冷静さを失わないように努力する様を見れて、とても嬉しく思います。」
「それは褒めているのか!? まったくもって褒められた気がせん...」
炎に囲まれ、死体が床を汚す。このような状況でも、少女と騎士はお互いが無事であることに喜んだ。
「...しかし、ラインにヨセフ、カールと精鋭の騎士三人を失うのはこう少々悲しいな...」
そう言いながら三人の亡骸へ視線を向ける。親しい者達との別れに惜しむような表情をしながらも、こちらに向きなおる。
紅玉の騎士、翡翠の騎士、蒼穹の騎士...三人の騎士を一度に失う。
これは王国としては大損害であり、長い間、交流を続けた姫からしたら国の損害を抜きにしても、泣き崩れてしまわれるのではないかと思われたがどうやら、私が思っていた以上に姫は成長していたらしい。
これなら...たとえ私がいなくてもきっと大丈夫であろう...
「だがしかし、お主がいれば、きっと復興もすぐに終わるであろうな!!」
彼の想いを知らない少女は、安堵の表情を彼へ向ける。
だがそういうわけにもいかない。
理由がどうであれ、私は戦友である三人の騎士をこの手で葬ってしまった。
その結果は変わらない。
そのようなことをした騎士が戦争が終わったもなお、王に仕えていたとすれば、それを不満に思う者も現れるだろう。
そうなってしまっては...きっと民からの支持は低下し、最悪の場合は反乱が起きてしまうかもしれない。
そんなことは決して起こしてはいけない。
この国の、これからとしても、私が慕う一人の少女を守るためにも...
「...どうしたんじゃ? ■■■■■、ぼっーとしておって」
兜でわからない彼の顔を覗き込こんでは、見えない顔色を伺っていた。
「...いえ、大丈夫です。 心配していただいてありがとうございます。」
「そう固くなるでない。妾たちはこれからのことを考えなければいけないのだからな。」
騎士に背中を向け、少女はこれからのことを考える。
しかし、彼自身はその未来よりも今なさなければならない大事な事があった。
「すみませんが、姫。 少々お話がありm...」
「そうじゃ!新しく精鋭騎士を選ぶとして■■■■■に勝ったものを精鋭騎士にするなんてどうかの?」
彼が話を切り出そうとすると、少女が話をし始める。
無邪気に次のことを考えては、あれはどうかこれはどうかと、騎士に聞く。
「姫様、お話g...」
「ああ、すっかり忘れておった。」
「姫様...」
「■■■■■よ、お主がもし...もしよければ、そのな...精鋭騎士とではなくずっと私の隣で...」
「話を聞いてください!!」
まるで楽しそうに夢見る少女に対し、騎士はまるで現実を突きつけるかのように大声が少女を向かせた。
はっと我に返り、少女へ弁解しようと少女の顔を見ると
「嫌じゃ...」
そこには、大人に怒られた子供のように涙ぐむ少女の姿が映った。
「...姫様。」
「嫌じゃ、絶対に嫌じゃ!!」
ぽたぽたと床に大粒の涙を落としながら、駄々をこねる。
彼女自身わかっているのだろ。
精鋭騎士の一人が戦友である三人の騎士を手にかけたのだ。
そんなものを近くに置いてしまえば。
自分の身...そしてこの国も大変なことになることなど...
幼い頃から世界の闇を見てきた彼女なら、すぐに理解ができてしまうのだろう。
「わかっているのであるのなら、なぜ否定するのです。
王女であるのならば、一市民の命ではなく。数百をの民を従えるこの国のことを考えてください!!」
「嫌じゃ!! どうしてなんじゃ...どうしておぬしが死ななければならないのじゃ!!」
わかっている。
まだ彼女は幼い。
まだ子供なんだ。
でも...それでも彼女はこの国を統べる王だ。
たった一人の命のために数百をの民を無碍に扱ってはいけない。
「わたくし、■■■■■は祖国のため、愛しき姫の為ならば、この命。惜しくなどありません。」
「そのような問題ではない!! 妾はおぬしが死ぬのが嫌だと言っておるのじゃ...」
「...●●●●●。私はあなたに生きて欲しい。王女として、一人の女性として幸せに生きてほしい。
この命は...ただ、民の機嫌を取るために捧げるのではありません。
この国の未来...そしてまだ見えぬ困難に立ち向かうあなたのために捧げるのです。」
「なら...妾を仇なす全てをおぬしが払えばいいではないか!!」
「それは無理な話なのです。私とて万能ではありません。
ひとつでも間違えてしまえば、簡単に死んでしまいます。なにより...私の失敗で、あなたを失うのが怖いのです。」
「...辛いのはわかっております...ですが、正しい判断をしてください。」
「だから...今ここで妾におぬしの首を斬れというのか...」
「私が姫に間違った道を示したことがありますか?」
少女はその話を聞くと、少し俯き考えた。
そして騎士に目を移し、口を開く。
「わかった...だが一つだけ約束をしてくれぬか...」
静かに...せめての想いを託すように少女は彼に話す。
「...なんでも、申し付けてください。」
騎士は己の責務の為に兜を取り、少女の前に跪く。
「少し前に、この国に来た詩人がとある詩を歌っていた。
その詩では、死に分かれた二人が生まれ変わった後、再び出会い、幸せに暮らすという歌じゃった...」
騎士はただ、少女の話を聞く。
「だからな。もし、妾たちが遥未来の...同じ時に再び出会うことができたならば...今度はずっと妾を守ってほしいのじゃ」
彼女は微笑む。国の為...そして彼女の為に命を捧げる騎士へ...せめてもの願いを...叶えることのできなかったこの想いを、いつかまた会える。その日の為に彼女は剣を振り上げる。
「...かしこまりました。その時は、その命が尽きるまであなたを守って見せます。」
再会を約束し、彼が微笑む。
瞬間、一筋の剣筋により、彼の首を飛ぶ。
燃える城に、幾つもの亡骸の中で一人の少女が佇む。
ふと、彼女の頬に水が当たり、上を向く。
どうやら雨が降り始めたらしい。
雨は少しずつ勢いが増していき、燃えあがる炎を沈めていく。
土砂降りとなり、鎮火した城に残ったのは、いくつもの死体と、雨のように声を上げて泣く。一人の少女だけだった。
...そして彼は優しい夢と共に現世で目を覚ます。
その時の夢を彼は正確に覚えているらしく。その夢の話を聞いた者は、頭は無いがその話の時だけは、彼の表情が分かった気がしたと綴った。