ああ、またやってしまった。真っ黒に染まった手とへし折られた電信柱、叩き割られたアスファルト。実験による後遺症の頭痛が引き金になってエフェクトを展開してしまった。
あたりに悲鳴が走り、周りの人たちが怯え切った表情をしながら逃げていく。口々に「バケモノだ！！」と叫びながら。
「違うの！こんなこと望んでした訳じゃない！信じて！」もう何度目かもわからない叫びを上げるも聞き入れてくれる人がいるわけもなく。ああ、UGNどもがやってくる前に早く立ち去ろうと思って顔を上げると一人の男性が目の前に立っていた。
「どうして…、どうして逃げないの…？私は危険な存在よ…？」思わず率直な感想を口に出す。
「だって、貴女は泣いているじゃないか、それもとても苦しそうに。放っておくことなんてできないよ。」
そう言って彼は手を差し出してくる。「僕の名前は讃良彦星。どこまで力になれるか分からないけど、もし良かったら貴女の助けになれないかな？」
震える手で彼の暖かな手をとった。

離れた場所にある公園のベンチに二人で腰かける。オーヴァードの事をそのまま伝えて彼を混乱させるわけにはいかないから「自分の生まれつきの力が強すぎて加減ができないこと」として彼に伝えると多少驚かれはしたが彼はすぐに柔らかな笑みを浮かべてこう言った。
「人には誰だって得意不得意があるんだから仕方ないよ。それにしても酷い話だよね、貴女は優しい人なのにただその力だけを見てバケモノ呼ばわりされるだなんて。」
「優しい？私が？」
「うん、だってさっきどうして逃げないのかと聞いたのも力の加減ができるようにしたいのも誰かを傷つけたくないからだよね？酷い言葉を投げつけられて怒ってその力を振り回すこともしていないし貴女はとっても優しい人だよ。」
そんな事を言われたのはいつ以来か。この忌々しい力に目覚めてからは初めての事だろう。そんな中彼が言葉を続ける。
「良かったら名前を教えてほしいな。もっと貴女と話がしたいけどなんて呼べばいいのかな？」
「え？！、あ…。い、壱村、壱村美結です…。」
「壱村さんだね、僕の事も讃良とか彦星とか好きに呼んでくれて良いからね！」
「は、はい、讃良さん。…なんだかちょっと気恥ずかしいです…。」
「あはは、まあいきなりこんな事になって驚いちゃうよね！」そう言って彼は笑う。輝く一等星のように。
彼、讃良彦星との出会いだった。


もとより頼れる人も友と呼べる人もいない私だ、自然と彼に会う回数は増えていった。彼も自分の時間を割いて私に会う時間を作ってくれた。私に恐れもせずに手を握ってくれて、バケモノではなくちゃんと私の名前を呼んでくれるたった一人の人。
次第に次に彼に会える日を心待ちにし始め、彼と過ごす時間が終わらないように少しずつ一緒にいる時間を延ばしていった。
「ねえ、讃良さん。近くに素敵なカフェができたのだけども一緒に行ってみませんか？」
「自分の力をどうすれば制御できるようになるかしら…。え？手芸とか細やかな作業はどうかって？う～ん、ちょっと挑戦してみようかしら…。」
「ねえ見て！マフラーを編み切ることができたのよ！ちょっと不格好になっちゃったり針がダース単位で折れちゃったけど…。よ、良かったら貰ってくれるかしら？…良かった、頑張ったかいがあったわ！」
「このブローチを私に…？この前のマフラーのお礼？！嬉しい！！大好きよ彦星くん！！」

もう忌々しい過去なんてどうでもいい。彼と一緒に素敵な未来を歩いていけるのだから。




そう思っていたのに。

讃良彦星を目覚めさせる手掛かりを求めて願いを叶えるという噂を聞きつけ藁にもすがる思いで遺跡に足を運び、そこで兆橋陸、逢坂空、鳶一理三たちと出会う。願い星“ステラ”をめぐってあわや一触即発になりかけるが陸とステラが倒れたことによってひとまずUGNに協力することになった。ステラの力を使い彦星を一時的に目覚めさせることには成功したもののすぐにまた意識を失ってしまい思わずステラに怒りをぶつけてしまいそうになっていた。
力を求めてステラを攫った淀川銀河を追うことになり、年長者として陸や空、結目叶たちに想いを伝える為のアドバイスをしたりもした。
事件解決後、ステラから貰った石の力で彦星が目覚め、泣きながら彼の復活を喜んだ。
その後、逢坂空にパンケーキ屋で彦星と一緒にイチャついているところを目撃されている。