3年前、彼は幼い頃親の離婚により生き別れになっていた弟と実に15年以上ぶりの再会で、その日はたまたま街へきたサーカスを見に来ていたのだった。
久々に会う弟は自分に似ず、背も高く大きくなり小さい頃の面影はなかった。
横には高校生くらいの女の子、どことなく自分にも似ている。母の再婚後にできた妹らしい。
腹違いの兄に自分も会いたいと言いだしついてきたとのこと。くしゃりと笑った顔は幼い頃の弟そっくりでとても可愛らしい。
初めて会うのに違和感はなく、サーカスまで楽しい時間を過ごした。

しかしサーカスへ来たのは間違いだった。
そう、三年前の赤い月の輝いた夜。
その夜は悪夢となったあの赤災の夜だ。

逃げ出す観客、道中片目抉り奪われたがそれでも弟と妹を逃がそうとした。
だがそれは叶うことなく、パニックの観客に押しつぶされ弟とも妹ともはぐれてしまう。
手をつなごうとも、群衆に潰され見えるのは背の高い弟のみ。妹が流されたと思われる方にはにたにたと笑う道化師。
時間がいかほど経ったのか、周りの喧騒はもう聞こえない。気づくと血だまりの中座り込みSIDに保護されていた。

クオリアと組む前に所属してすぐに半年ほど別の吸血鬼と組んでいたことがあった。
その際彼はどSなので、手は困るので腹部を主に切ったりえぐったりしたのでその傷が今も残っている。また胸元に爪の痕印があり、味覚を失っている。元々アル中だから味覚についてはさほど問題がない。

ついに憎き赤き夜に決着はついた。だが身体の傷は大きく、多少入院することに。
そんなことしてたらついに医務室追い出された。しかもなんでか相方と一緒の寮に住むことになった。
正直勘弁してほしい………。

嫌いではないが、自分を慕う理由がわからない。
正直なところそんな人間でないのは自分がよくわかっている。
だからどうにも好意を受け入れ難い。少し盲信しすぎなのでは？と思っている。
いつのまにか痕印が変わったようだが本人は気づいていない。

酒タバコ食事に口出しされなければいいが、口を出してくるようになった為少し小うるさい。
妹が生きてたらこうだったのかな、とたまに笑ってしまう。

クリスマス、初めて誰かと二人で過ごして。初めてプレゼントを貰った。
貰った輝く透明な氷の弾丸はネックレスにした。服の上にだしてないと少し冷たい。
ひんやりとした冷たさは彼女の体温を思い出させる。

丸一日一緒にいるのを約束したから、一緒に寝ることにもなった。
夏は一緒に寝れば気持ちがいいだろうなと思う。冬場は少し寒かった。
赤い悪夢は終わったのに、何かに責められている気がして眠るのはやはり怖い。
でも彼女がいたらちょっとだけ安心できたからいつもよりよく眠れた。
一緒に寝るのもありかもしれない。流石にダメか。

赤い夜も終わり、生きる意味が見出せずにいるけど。彼女が嬉しそうだから、まあ、生きれるうちは生きてみようか。

ただ相変わらず生活習慣に口を出されるのは玉に瑕。

ブラッドパスが途切れるとは思わなかった。
なくなると体力一気に落ちるんだなぁ、とか。なくなって初めて恩恵を感じたよね。

一体俺が何を喪ったかは、わからないけど。きっと、多分。喪ったものは、君たちがいなくなると還るんだね。
ぼんやりと目の前の緑の液体を眺める。
まあ、味がする。………………気がする。
無いと思ってたものは、あったらしい。なかなか減らない液体を苦々しく眺める。

アルコールは味覚障害によくないらしいから、控えることにした。
酒をやめろやめろと相変わらず五月蝿い相方は、少しは満足だろうか。

まぁ当分は全部をやめれそうにも無いけど。