疫病、恐怖、絶望...それらが蔓延る暗い時代。
"悍ましき眼の魔王"(イスパザデン・ベンカウル)が支配する世界でも、神の子は月に願い続けた。
その願いがやがて形を持ち、この世界に生を受けたのが僕達だ。
僕達は戦った。
幾人が命を落とし、幾人が妖魔に堕ちただろうか。
ホウジャクが先陣を切り正面の敵を薙ぎ倒し、
僕は戦場を駆け巡り敵を追い詰めた。
そしてジョウカイが後方の敵を激流で押し流し、
皆をズァンが護っていた。
その中、リンは人々が患った病や怪我をただひたすら癒していた。心が折れた人を励まし、涙を流す者に寄り添った。

だけど僕達は気づいていた。病や怪我を治し続けるリンは、もう限界を迎えようとしていたことを。
ホウジャクとズァンはリンの事を止めようとしたが、リンは治療の手を止めることはなかった。
最も辛いのはジョウカイだろう。彼は誰よりもリンの事を想っていた。
本人は隠しているつもりだろうけど、僕達3人はそれに気づいていた。
戦いの果てに彼が望むのは、リンとの幸せな一時なのだと。

だから...僕は決断した。
僕のこの身を崩し、純然たる精神エネルギーに変える。
その力をリンに分け与え、リンを繋ぎ止める。
彼女が完全に息絶えるまで...千年以上、僕が彼女を支えることにした。
当然、仲間達にこの事を告げても反対されるだろう。
だから僕は身勝手にも、誰にも言わず、一人で眠りについた。

さようなら、世界。
肉体が崩壊し、僕は二度と目覚めることはない眠りについた...