"闘狼"であるアレクはもともとエリンではない別世界において、"闘狼"一族の中で研鑽を積んでいた。その世界は一面が溢れんばかりの美食と危険に満ちていた。アレクは群れの中では若手であり、長には手も足も出ない。しかし、いずれは自分が長になってやるのだと野心に燃える期待のホープ。それがアレクである。
ある日、突然地殻変動が起こる。アレクの世界は"自然"こそが最も恐ろしい敵だった。眠っていたアレクは地割れに落ち、野心も咆哮も何もかも呑み込まれていった。
次に目が覚めた時、そこは見知らぬ世界だった。目前には狼狽する二足歩行の生物が一体。臨戦態勢に入ろうとするが、底のわからぬ穴に落ち続けたからか重度の疲労が蓄積しており身動きを取るのが困難であった。
今度こそ終わりか、と観念したアレクだったが二足歩行の生物に助けられた。何故？と困惑していたが、その生物──人間というらしい──を観察しているうちに気が付いた。人間とはそういう生物なのだ。「助け合い」を是とし、困っている者が居れば助けてやる。ならば、自分もそれに倣うべきだろう。
こうしてアレクはひとりの人間についていくことにした。幸いこの土地は自分の故郷とそう変わらない、美食と闘争の世界だ。ならばやることは変わらない。この世界を生き延び、研鑽を積む。そして強き敵を打倒し自らの強大さを知らしめるのだ。
いくばくか心躍らせながら、アレクは一歩を踏み出した。