容姿・経歴・その他メモ

身長

160

体重

45

髪

金

瞳

赤

肌

白

コヴィンの記憶にある母は、いつも寝床で背を丸め苦しそうに咳をしていた。
以前の母は冒険者として大層活躍していたらしいが、病に伏せる母しか知らないコヴィンにはとても想像できない。
コヴィンが生まれる少し前に大病を患った母は、彼が５つの頃に亡くなった。
彼に父はいない。一人になった彼を引き取り育てたのは、同じ村に住む伯母だった。

伯母は優しい人だったが、酔うと必ず父の話をした。
「オーヤヴィン・ゴステロ。あれはとんでもない悪党だ。人の心がない悪魔だ」
「あの子やおまえ、それに私が辛い思いをしているのは、全部あいつのせいさ」
「おまえは絶対、あんな悪人になっちゃいけないよ。正しくて善い人間にならなくちゃ」
「そうでないと、皆に認めてもらえないからね」

彼にとっては、母にも等しい伯母の言うことが全てだった。
自分は父とは違う。それを証明するために、彼は清廉潔白に生きようと努めてきた。
幼いながらもよく働き、伯母を助け、村の皆には親切に接した。

そしてコヴィンが14歳になった年の、実母の命日。事件が起こった。

その日彼は母の好物だったという果物を墓前に供えるため、山をおりて近くの町まで買い物に出かけた。
エルーラン王国の片隅にある小さな町だが、中央の動乱は聞こえている。
王女の興したルネス北朝と、現国王の座すログレス南朝。両勢力の間に位置するこの町はどちらに与するべきだろうか、と皆がザワついていた。
時世に疎いコヴィンはそれらの話にすっかり聞き入ってしまい、帰るころには日が暮れかけていた。

――そうしてやっと村に帰って来ると。
そこに、生きた人間は一人もいなかった。

大勢の足跡、争った形跡、真新しい血痕。そういったものは残っているのに、村人はひとりもいない。
その代わりに、おぞましいグールが村の中を徘徊していた。彼が生まれ育った村は、わずか半日で地獄に変わってしまった。

無我夢中で逃げ延びたコヴィンは、森に住む狩人に保護される。
その狩人は、村を襲った犯人を見ていた。
「フードを被った男が兵とグールを村に放ち、生きたまま捕らえた者も死んだ者も皆馬車に詰め込み、どこかへと去った」と。
そして自分は恐ろしくて声も出せなかったのだと、すまないと泣いて詫びた。

伯母の無事を祈りながら、コヴィンは麓の町へ助けを求めた。が、
「犯人が分からないんじゃねえ」
「近くにそんな村あったっけ？聞いたこともないな」
「今はお国のいざこざで人手が足りねえんだ」
とまったく相手にされない。

途方に暮れて視線をおとす。と、路上で踏みにじられた新聞が目に入った。
「グールを使役するルネスの客将・死霊術師ゴステロ」
過激な論調の紙面には、父であるはずの人物の名が躍っていた。

……偶然の一致、とは思えなかった。
ならばあのグールたちを村に放ったのは。皆を連れ去ったのは。

彼は問う。これから自分がやるべきことは？
――村の皆を、伯母を助けることだ。

自分ひとりで皆を救えるか？
――父がルネスの客将なら、敵は北朝そのものだ。とてもじゃないが敵わない。

では諦めるのか？
――ふざけるな、こんな悪行を許しておけるものか。

父は、ルネスは、村ひとつを平然と消し去った。
奴らを野放しにしておけば、同じ悲劇が国中で引き起こされてしまうだろう。
ならば自分は王都ログレスへ赴き、国のために皆と共に戦い、一日も早く北朝を滅ぼさなければならない。

村人の大部分がなぜ生きたまま攫われたのかはわからない。
だがわざわざ生かしたことには理由があるのだろう。たとえば近々起こるだろう戦に備え、無料の労働力にするためだとか。
だからすぐに殺されることはないはずだと考えた。いや、そう信じた。
少し遠回りにはなるが、皆を確実に救うにはそうするしかないのだと。

顔も知らない父のことを考えると、胸の内がぐつぐつと煮える。
かつて伯母が言っていた通りだ。救いようのない悪人は確かに存在していて、彼らは神の手ですら掬えない。
大多数の善なる人々のために、そのような悪人は殺すしかないのだ。

だからこれは復讐ではない。
自分は父のような悪人とは違うのだから、己の憎しみや欲望のために他人を害することはしない。
憎悪ではない。怨恨ではない。憤怒ではない。我執ではない。独善ではない。
皆のため、この国のために正義を成すのだ。

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