自分がどうやって生まれたのか、なぜ生まれたのか、何もわからない。気づいた時には辺りが氷に包まれた世界「沈黙の氷原」に立っていた。沈黙の氷原の厳しすぎる環境は、彼女に生まれた意味を考える時間など与えなかった。彼女はまずは自分の命を守るために行動することに決めた。

沈黙の氷原での暮らしは、想像を絶するものだった。厳しい寒さに体力を奪われ、食料すらもまともに手に入らない、常に死が隣にいるような感覚だった。自身の魔力を使い、なんとか日々を生き延びていた。しかし、それよりも遥かに辛かったのが孤独だった。あたりに人の気配はなく、彼女は常に一人だった。歌を歌い、魔力で雪で作った人形を動かし寂しさを紛らわせる。そんな日々がずっと続いた。

――スネグラーチカが生まれてから数年が経ち、彼女は一つの決意をする。「自分以外の話せる生き物を探そう」彼女は沈黙の氷原の外を目指した。それはちょうど氷原開拓団がこの地に拠点を作ってからしばらく経ち、アイスメイトと呼ばれる者たちが生まれ始めたころだった。

「話せる生き物」をあてもなく探し回るのは、今まで生きてくるのに魔力をかなり使ってしまっていたスネグラーチカにとって、かなり厳しい旅となった。凍り付きそうなほどの寒さの中、ずっとずっと歩き続けた。そうしてしばらく歩き続けたころ、彼女は見たこともない物を見つけた。それは氷原開拓団の拠点だった。「あそこなら誰かいるかも！」喜んで駆け出そうとする彼女だったが、彼女の体力は既に限界だった。駆け出そうとするが、足が動かない。
――ここで死んじゃうのかな、せっかく誰かに会えると思ったのにやだな…。スネグラーチカはその場に座り込み、涙を流す。死にたくない、せっかく誰かに会えそうなのに。しばらくそうしていると、遠くの方から声が聞こえてきた。「おーい！そこのお前、大丈夫か！？」微かに聞こえた彼女の泣き声を聞きつけた氷原開拓団の一員だった。
――ようやく話せる生き物に会えた！スネグラーチカは残った体力を振り絞り、駆け寄ってきた男の元へと歩を進めた。

その後、彼女はスネグラーチカを見つけ出した男、バッカスに連れられ、氷原開拓団の拠点に保護された。しばらく休み、体力が戻ると彼女は自分以外の話せる生き物がいっぱいいるのに歓喜し、拠点中を駆け回り、仕事中にも関わらずいろんな人に話しかけまくった。それをバッカスが注意し、頭を下げる。そんな日が続いた。
彼女がある程度拠点での生活に慣れてくると、彼女の中に1つの目的が生まれた――私をこんな素敵なところに連れてきてくれた人たちに恩返しがしたい。
彼女は氷原開拓団の人々の仕事を少しずつだが、手伝うようになっていった。

バッカス

スキンヘッドの厳つい見た目をした男。
そんな見た目だが、性格は気がいいおっさん。
グランフェルデンで食事処「蒼の竜星亭」の店主をしていたが、古い友人のヴェラトール・ランベントが氷原開拓団の団長に選ばれた際に「厳しい環境だ、美味い飯でも食えなきゃやってらんねえだろ」と店は弟子に任せ、ヴェラトールについていくことを決めた。
昔は名の知れた冒険者であったらしく、今でも自衛程度はなんなくこなせる。
スネグラーチカのことは実の娘のように大切に扱っているが、スネグラーチカの元気さに良く振り回されている。

キリエ

アーシアンの転生者で今はエルダナーンの女性。バッカスの妻。
綺麗な緑の長髪で、穏やかな性格をしている。
現代地球にいた頃は、パティシエールをしていた。
今世でもその頃の知識を活かし、「蒼の竜星亭」で様々なスイーツを提供している。
エリンでは見ないようなものも多く、このスイーツを求めてこの店に来るものも多い。
バッカスが氷原に行くと決めた際には、バッカスの反対を押し切り自身もついていくことを決める。
スネグラーチカのことはバッカス同様、実の娘のように可愛がっている。
スネグラーチカに振り回されているバッカスを見てはあらあらと穏やかに微笑んでいる。