サフィアには生まれた理由が無かった。少なくともサフィアはそれを知らなかった。サフィアを造ろうとする"誰か"の日記、というよりは研究記録から"誰か"が錬金術師であることはわかった。「錬金術師に造られた」という数少ないアイデンティティに縋るように錬金術を独学で習得した。
いつものように錬金術に励んでいたある日、彼女が工房に落ちてきた。それがアーシアン、金森美鈴との出会いだった。突然のことに困惑する二人だったが、寄る辺なき者同士、惹かれ合うのは必然だったのかもしれない。美鈴と親しくなったサフィアは彼女が故郷へ帰るための手助けをすることを約束する。
美鈴が帰るその日まで二人でこの世界を生きるために、サフィアの技術と美鈴の知恵を出し合い、「サフィアの錬金工房」はオープンした。それがサフィアの錬金術に目的が生まれた瞬間だった。

商会長に出店許可をもらい無事オープン！珍しい二人がやっていることもあってかそれなりにした。思いのほか順調な出だしだったものの、商会長失踪事件が起き店には閑古鳥が鳴いていた。どうしたものかと頭を抱えるなか、店を訪れたのは商会長の娘フォー・メルア・フィーメル。彼女の目的は冒険をしてくれないかという依頼だった。快諾しようとするサフィアの口を慌てて美鈴は塞いだ。「二人で話して決めたいので今日のところは持ち帰らせてください」

「むぅ、なんでー」と不貞腐れ気味のサフィア。
「危険な仕事でしょ、そう易々と受けられないわよ」
美鈴の目的は生きて故郷に帰ること、危険を伴う冒険は反対だった。
「でもでも！ネヴァーフ遺跡ってすごい装置も見つかってるし、ミスズちゃんが帰る方法も見つかるかも！収入も今のままだとちょっと心もとないし…」
客がいなければ金も情報も集まらないのは確かだ。冒険で収入源を増やしつつ、商会の復興に繋がれば一石二鳥。帰る方法に関する何かも見つかれば一石三鳥だろう。でも…危険な役割をサフィアに押し付けるようで認めがたい。悩んだ挙句結局決め手はサフィアの輝かしいまでの眼差しだった。普段冒険者の客の話を聞くサフィアを見ていれば冒険に少なからず憧れていることは美鈴もわかっていた。
（わたしにサフィアの生き方を決める権利もないか）と諦め、「ちょっと待ってて」と足早に店を出て行った。しばらくして戻った美鈴が持っていたのは妖魔など危険な生物や罠に関する図鑑だった。
「せめてここに書いてあることは叩き込んで、それが条件だから」
半泣きになりながらも急ピッチでサフィアはそれらを覚えこむのであった。