リーゼンフェルト家は代々シュトライア家に仕える騎士の一族である。
今代の長女エルザも父や兄とともに、シュトライア家当主のライムント・フォン・シュトライアへと仕官していた。
ライムントは"失われた技術"とも称されるレガシークラスに大きく傾倒しており、その力を得られれば人間勢力の増強、発展・繁栄に繋がるという考えを持っていた。
エルザはライムントより「レガシークラスの調査を勧めよ」という命令を下され、数名の調査隊を編成しレガシークラスに関する秘密が眠るといわれるヒルベニアへと赴いた。ここで問題であったのは、調査隊の中にシュトライア家嫡子ランブレヒトの手の者が混ざっていたことである。
ランブレヒト・フォン・シュトライアは俗物で知られ、大望を持つ父ライムントとは水と油。そのためライムントは自らの思想を色濃く受け継いでいる次男に家督を譲るのではないかというのが領内ではもっぱらの噂であった。
ランブレヒトはこれを良しとせずあの手この手で次男を追い詰めていき、その悪辣さはシュトライアいちの騎士たるリーゼンフェルト家の知るところとなっていた。
そのランブレヒトの派閥の者が調査隊に密かに紛れ込んでいた。このことに気づけなかったのがエルザの最大の失態といえる。

調査そのものは順調に進み、ヒルベニア地下のネヴァーフ移籍に手がかりがあるのではないかという情報を得るに至った。
ネヴァーフ遺跡は居住区の外に広大な非居住区および未探査領域が存在し、事を起こすには適した場所だ。
エルザをはじめとするライムント派閥の者たちはランブレヒト派閥の罠に掛かり地面の崩落に巻き込まれてしまう。
落ちた先は見慣れぬ遺跡。目の前には浮遊する武器が待ち構えておりどこからかこのような声が聞こえてきた。

「我は武勇の力を試すものなり」
「汝がミリタントを継承するに相応しき者か、ここに示せ」

声が止むと同時に戦闘が始まった。大半の者は落下の衝撃で物言わぬ屍と化しており、動ける者も重傷で戦闘についていけなくなり致命の一撃をその身に受けることになる。戦闘が終わった時その場に立っていたのはエルザただ一人だった。

「エルザ殿、ライムント様の元へ、その成果を……」

エルザの左手には古の紋章の一部が宿っていた。全てではないが、どうやら"ミリタント"とやらの力を断片的に行使できるようだった。この力こそ、ライムントの欲していたもの。
加えて、あの裏切者よりも早く領地へ戻らねば何が起こるか分かったものではない。もはや助からない戦友たちを背に、エルザは転送石を使用し遺跡より脱出した。

シュトライア領はすでにランブレヒトに乗っ取られていた。ヒルベニアでの作戦と同時にライムントの暗殺計画が進行していたのだ。ランブレヒトの手の者により捕らえられてしまったエルザだったが、ランブレヒトへ寝返った兄によって助命され領内からの追放措置ということに。

「私のことは何とでも言うがいい。今は……このリーゼンフェルトの血を絶やすわけにはいかない。いずれまたあの方のような主に仕えるためにも……。」

侮蔑の言葉を投げかけようとしたエルザは、そう言われ黙り込む他なかった。
シュトライア領を離れ目的もなく放浪していたエルザはやがて"古き王都"グランフェルデンに流れ着く。
身を寄せたグランフェルデン大神殿で神官長ソーンダイクに勧められるまま冒険者となった彼女の心の内には亡き主ライムントの言葉が渦巻いていた。

「エルザ・リーゼンフェルトよ。大いなる力は燻っていてはならん。この世界に生きる人々の為にこそ……振るわれなければならぬ」

ライムントの騎士として何を為すべきか。思い悩むエルザはまだ気づかない。
濁流が如き運命の奔流の只中にいるということを───。