偶然本を手に入れることができたので、メモ代わりに日記を書くことにした。
　篠原のヤツが提案し、俺ともう一人……白瀬優理亜を実験台とした「門の創造で異世界に行ってみよう実験」は、最悪の形での成功を迎えた。空中スポーンで早速死にかけたし、戻る手段もない。本当に最悪である。
　だが、そんな最悪の中でも希望の星があった。落下してきた俺たちをキャッチで受け止めてくれた『メルダ』さんだ。なんかいろいろ事情はあるみたいだけど、それでも俺たちの護衛として同行してくれることになった。
　俺たちになんの見返りを求めるわけでもなくこんなことしてくれたんだから、いつか少しは恩返ししたいな。

　道中は(たぶん)奇跡的にモンスターには会わずに街に入ることができた。
　先に優理亜のハンカチ代わりに使われた服を着替えるためにメルダさんに貰ったお金で服と、ついでに外で活動することを考えて(俺はいらない気がしたけど)武器のナックルを買って、俺たちは冒険者になるため神殿とやらに向かった。どうやらこの世界の冒険者は神殿での一括管理になっているらしい。
　神殿に入った瞬間、俺は正直ビビり散らかした。なんてったってボ卿がいたのだ。ボンドルド。最近コンパスにコラボしたメイドインアビスの黎明卿のボンドルド。
　本家こそ知らないけれど、ボ卿の強さ……というか理不尽さは嫌というほど味わった。なんてったってほぼ全部の試合にボ卿がいるたのだ。「ファーカレス」で引っ張りして転倒したところに連撃は切られ「スパラグモス」られ……なんなら通常攻撃すら範囲広いし痛い。
　しかも、試験の内容がそのボ卿と戦うとかいう内容で正直逃げ出したくなった。
　とはいえ申請用紙は出してしまったのだし、試験だから死ぬことはないでしょう、ということで試験自体はちゃんと受けることにした。幸い同時に受ける人たちと一緒に戦えたので、そこだけは安心だった。
　一次試験？はなんとか突破した……が、「本気を出すから耐えろ」なんて言われた。死ぬしかないじゃない。
　とはいえ、途中で投げ出せる訳もなく。本気のボ卿とぶつかり合うことになった
　その後のことは覚えていない。攻撃を予見して、俺は無我夢中で突っ込んでいた。誰かの盾になれれば。誰かが立って次につなげてくれればと思って。そして、攻撃が当たった……と思った瞬間に、俺の意識は途絶えた。

　次に目を覚ました時、「知らない天井だ」なんてつぶやいてしまって少し恥ずかしかった……が、体を起こした瞬間、その程度の感情は吹き飛ばされた。なんたって優理亜が俺の鳩尾に頭突きをかましてきたのだ。正直すっごく痛かった。
　優理亜はそれはもうものすごいボロ泣きだった。俺のこと心配しすぎだろって思ったけど、それくらい大切に思ってくれてるんだと考えると少し嬉しいような、恥ずかしいような気がした。ちなみにその後優理亜に小一時間ほどお説教されました。
　その日は優理亜が絶対に離れなかった。どこに行って何をするにも俺の袖を掴んで離さないし、いざ寝ようとしたら「一緒に寝る」なんて言ってきた。さすがに恥ずかしかったけど、断ることはできなかった。

その夜、また優理亜に怒られた。「もう二度と無茶しないで」って言われた。正直あの行動は無謀だったのは理解している。けれど、それが誰かを生かすことに繋がるなら、たぶん俺は何回でもやるだろう。そう思ってしまって、何も言えなかった。
　その日から、優理亜はずっと俺についてくるようになった。散歩するだけでもついてきて離れない。気にかけてくれるのはうれしくはあるけど、疲れないのだろうか。いや、俺が不甲斐ないせいか。

　これ以上心配させないようにと、少しずつ筋トレを始めた……ら、なぜか優理亜も始めた。見た目のわりにフィジカルが強い俺はともかく、優理亜は効果が薄いんじゃ……と考えたが、何も言わないことにした。

―――追記―――
・リード君になぜかボ卿の衣装を作るお手伝いを頼まれた。スマホがあってよかったけど無かったらたぶんキツかった。
・何故かメルダさんが俺らの筋トレに混ざることになった。

　あの一件から、ある程度時間が立った。整理がついたので、改めて日記を書くことにした。

　山の翁とかいう人に、不思議な力を貰った。死んでも死なない。短絡的に言うならそんな力だろうか。自分にも、接触しているなら他者にも使えるらしいこの能力は、きっと、役に立ってくれるだろう。……優理亜には、少し申し訳ないけどね

　滅びの魔女「ヒルダ」によって、ボンドルド……改め、明星望は結晶となってしまった。何もできなかった。その無力さだけが残った。いつか、望を救い出す。そして、いつかヒルダは殺す。その誓いを胸に抱き、王都ランベルトへと向かうことになった。

　王都に着いて、案内を受けているとき。白髪のかわいい猫耳少女が俺たちの後をつけてきていることに気が付いた。ついでになぜか、その子は優理亜に懐いていたようだ。こちらの言葉はわかる様子だったが、その子の言葉ははっきり言ってわからなかった。が、なんとびっくりリアネスの召喚しているフェンリルがその子の言葉を理解できた様だった。
　フェンリルさんに翻訳を頼んで、その子とコミュニケーションを図った。その子がアコライトの技術を持っていること、前世は本物の猫で、虐められて死んでしまったのであろうこと。ここまでの話を聞いて、俺と優理亜の意思は統一された。
　その子にアルスィと名付け、俺と優理亜の二人で責任もって育てることにした。まさか結婚も前に子供ができるとは……いやそうじゃなくて。というか優理亜と結婚するとか言ってないし！
　……それはともかく。しばらくは三人で暮らしていたが、ある時、アルスィがプレゼントのためにメルダさんとリードにお金を借りたことが発覚した。優理亜はめちゃくそ喜んでそれどころじゃなくなってしまったので、仕方なく俺がお叱りすることにした。まぁ、これでしばらくは大丈夫だろうけど……大丈夫だと信じたいけど、うん。

　アルスィが、福音使徒のダンテと一緒に居る場面を見つけた時、正直慌てた。が、戦いの基本は冷静になること。観察して、隙を伺っていると、すぐにダンテがアルスィによくしてくれていることが分かった。ヒルダを殺す宣言はしていても、さすがに娘の恩人を殴るわけにはいかないので、普通にお礼を言った。その後、衛兵が来たりしたが、なんとか乗り切ることができた。その後のアルスィを宥める方が大変だった。
　ダンテ含むヒルダ組が絶対悪ではないことは分かったが、それはそれだ、これはこれだ。

　あいつとは、いつか必ず、真っ向から戦いに行く。