何年前だろうか、故郷が戦火に包まれたのは。

　私は、わたしだけは、助かったらしい。
らしい、と他人事な表現なのにも理由がある。

　私は全てを失ったあの日とそれまでの日常の記憶がほぼ全て欠落している。

　私に思い出せるのは死にゆく「誰か」前で大声で泣きじゃくったことと、燃える故郷の中で何かから必死に逃げた景色だけなのだけれど…

　はっきり覚えている最初の記憶は檻の中だった。

　奴隷商と「ご主人様」にされたことの数々は…
多分『ここ』に記すべきではないかな？

　買われてからは食事がちゃんと出てるだけまだマシなんじゃないかな…と思う。

「ご主人様」は、私が"英雄"フラムランの子であると、私に戦える力があることを知ると、小金稼ぎと道楽のために私に冒険者の真似事をやらせるようになった。

　別に死んでも構わないような雑な扱いで放り出されたけど最低限の装備を整えるくらいの金は用意された。

　とりあえず今の目標はこっそり報酬金の一部を貯めて「自由」を手にすること。

　どうせ拒否権はない。

　私なら死ななければどうにか出来るとは思う。