「お気に入りのラーメン屋さんが潰れちゃったから私もついでに。」
という理由で自死を選んだとして、あなたはどう思うだろうか？
「それくらいで死を選ぶなんてメンタル脆すぎ」？
　確かに、そう思うこともあるかもしれない。私がそんな風に尋ねたのには理由があって、この件がキャッチーな見出しで拡散され、見える範囲では上記のような引用やコメントが目立っていたからだ。
　わざわざこんなこと取り上げる、つまり違う意見があるのでは、と推察するかもしれない。まさにその通り。
　あくまで私の考えだが、ここでいうラーメン屋さんが潰れる、というのはトリガーでしかない。彼らが閉店をきっかけに死を選ぶまで、幾つもの悩みや疲労が彼らを苛み、あと一歩のところだった。正直トリガーとなるような出来事が起こればなんでもよかった。彼らならそうやって自死を選んだんじゃないかなって思う。死人に口なしとはよく言ったもので、死んでいった彼らの本意なんて知りもしないけれど。これを踏まえると、どうも上記のような発言をする人っていうのは、たぶん精神が底の底まで落ちてしまって、あと一歩で三途の川を渡っちまう、なんて経験したことがないんだろうな、とか邪推してしまう。とはいえ別段彼らのことを憎んでいる訳ではなくて、むしろそんな発想が出てこないということは、彼らの周りの健康福祉環境が充実しているなによりの証拠だ。素敵なことだと思う。
　人間というのは目に見えるものしか信じない生き物だ。この生き物を相手にするにあたって偶像は、その表面に傷一つ見せないことを強要される。同じく傷を受けるなら表面より内面の方が好ましい。売り手が買い手のそうした欲求に応えようとするので、市場はますます狂う。ものは叩けば壊れる。人とて例外でない。普通は壊れれば可視化され早急に治療される。福祉のあるべき姿だと思う。偶像は傷を内側に隠すことで寿命を延ばすのだ。皮肉にも偶像として伸びた分、利子付きでヒトで居られる時間を払う必要があるが。そういうわけで冒頭の"メンタルが脆い"人間ができているのだ。雨垂れすら岩を穿つのなら、苛みが璧を内側から壊すのも難くない。
　彼らがそれをよしとするなら文句は言えないが。私も看護師としては腐すが、偶像としては共感する。つまり、健康を犠牲に発揮を優先することを。それでもなお、身近な友人の死というものは慣れない。偶像はいつまでも偶像であろうとする。それは期間が長いというわけではなくて、オフの時間が短いという意味で。けれども彼らが常に偶像というわけではなくて、すこし距離感を掴めてきた頃に偶像じゃない部分が垣間見える。私はそんな偶像じゃない彼らと遊ぶのが好きだった。一緒に遊んだ後には次の遊びの約束をして、彼らの生きる意味になれればよかった。
　であるからこそ、彼らの死はつらいのだ。私が何もできなかったこと。私が彼らの生きる意味にはなり得なかったこと。
　実は、冒頭の件は一番直近で死んだ私の同僚のことなんだ。彼女とは3年の付き合いだった。人間関係の目まぐるしく変わるこの業界で1年以上というのは永遠に限りなく近い。