出自：王侯貴族
ジークフリートは神聖ヴァンスター帝国の貴族の三男として生まれた。父は宮廷に仕える役人であり、母はゼダン皇子の乳母として召し抱えられた。その縁もあり、ジークフリートは幼少期のほとんどをゼダンと共に過ごすことになる。

ゼダンは病弱で床に伏せることが多かったが、ジークフリートはそんな彼のそばに寄り添い、共に語り合った。身分に囚われない登用制度、錬金術の技術発展のための協会の発足と支援、自ら剣を取り前線に立つ皇帝とその傍で御身を護る護衛騎士──幼い彼らが思い描いた未来の中で、二人は常に共にあった。

「共に力を合わせ、帝国をより良いものにしよう」

そう誓い合い、その証として二つに割ったメダリオンの片割れを互いに持つことにした。メダリオンには、後にゼダンが即位する際に正式な国章として採用した紋章──聖杯と三本の交差する剣──が刻まれていた。

境遇：親友
ジークフリートが騎士を志したのは、ゼダンを守りたいという強い想いからだった。幼き日に誓った約束を果たすため、彼は剣を取り、厳しい修練に身を投じた。貴族の三男として生まれた彼には家督を継ぐ義務はなく、ゆえに選んだ道は純粋な意志によるものだった。騎士としての誇りを胸に、ジークフリートは愚直なまでに努力を積み重ねていった。

その過程で出会ったのが、レイラン・フェイハートだった。フェイハート家は代々騎士を輩出する由緒ある家系だったが、レイランは庶子の生まれだった。そのため正統な後継者として認められず、貴族社会の中で冷遇され、陰口を叩かれることも少なくなかった。格式や血筋を重んじる帝国の中で、彼の存在は異端とされたのだ。だが、そんなことはジークフリートにとってどうでもよかった。

二人は互いに剣を交え、励まし合い、共に成長していった。生まれの差や身分の壁を超え、二人は固い友情を築いた。だが、貴族社会はそんな絆を快く思わなかった。
レイランに対する誹謗中傷は年々増していった。彼が庶子であることを理由に、貴族の子息たちは彼を執拗に侮辱した。それを見たジークフリートは、怒りを抑えられなかった。貴族社会のしがらみを理解していても、友を傷つける言葉を見過ごせるほど、彼は器用ではない。結果として彼自身もまた、周囲から厄介者扱いされることとなった。

それでも彼は構わなかった。レイランを友と呼ぶことを、決してやめはしなかった。

だが、そんな日々も長くは続かなかった。フェイハート家はある事件を機に取り潰され、レイランは騎士団を辞めさせられた。
ジークフリートは、何かできることはないかと手を差し伸べようとした。だが、ジークフリートと対等な友であり続けたいと思ったレイランは騎士団を去り、冒険者となった。

ジークフリートは、レイランを守れなかった自分を責めた。何が正しかったのか、何が間違っていたのか、考えても答えは出なかった。だが、ただ一つ確かなことがあった。彼の心の中で、「大切なものを守れなかった」という後悔が深く刻まれたということだけは。

目的：約束
ゼダンの即位後、帝国の未来を共に語り合ったゼダンとの関係に、次第にわずかな軋みが生じるようになった。ゼダンの態度はどこかよそよそしくなり、以前のような親密さが失われていった。ジークフリートはその変化に戸惑いながらも、「きっと何か理由がある」と自分に言い聞かせるしかなかった。
やがて、彼は帝都から遠く離れた辺境の地・トルナーレへの左遷を命じられる。理由は明かされず、ただ「ゼダンの不興を買った」という噂だけが流れた。
左遷直後の彼は、失意に沈み、時には酒に溺れる夜もあった。ゼダンとの間に何が起こったのかも分からぬまま、ただ帝都から遠ざけられた現実が胸に重くのしかかった。それでも、ジークフリートは折れることなくトルナーレで自らの役目を見出していき、現在はトルナーレ唯一の帝国騎士として町の平和を守るために尽力している。
トルナーレの人々の暮らしが少しでも「より良いもの」であるように、ジークフリートは努力を惜しまない。