冒険者の世界は自己責任だ。
騙される方が悪いのだろう。
他ならぬお父さんも、常々そう口にしていた。

　私が冒険者になるひと月前のこと。
　その日父は簡単な警備の依頼を受けて昼頃に出かけて行った。
どうにも金払いのいい依頼人であるらしく午前中は鼻歌混じりに装備の点検をしながら私たちにお土産の希望を聞いて回っていたのを覚えている。

　父は命を天秤の片側に乗せて日銭を稼ぐ不安定な職業であるにも関わらず、3人のきょうだいと母を養い続けることができた。
　今振り返ると父は相当高位の冒険者だったのだろう。

　だが父はその晩、利き腕を失った状態で家に帰ってきた。

　やけに羽振りのいい依頼人は犯罪組織の幹部だったらしく、父は抗争に巻き込まれた。

　当然利き腕を失って剣など振れるはずもない。
我が家は収入を失った。

　私たちは内職を始めたが、それでも数ヶ月後には家族は路頭に迷う計算になる。

　そして私には魔法の才能があった。
実戦経験のない素人が冒険者の世界に身を投じるなど自殺にも等しい愚行だったがそれでも飢え死にを待つのも嫌だった。