容姿・経歴・その他メモ

今からしばらく前の話。
とある世界で供物となるべく育てられていた子がいた。
彼に正式な名前は当時無かったが、外界に出ることを禁止されたその子は『大界不知童子（たいかいしらずのわらし）』という呼称を与えられ、多くの世話係からは蔑称として『タイカ（対価、すなわち供物の意味）』と呼ばれていた。
彼はその世界においての神に捧げられるために育てられていた。獲物となるのか、はたまた生贄か、当時の彼は何も知らずに狭き環境の中で育った。

そんな彼に転機が訪れたのは、彼が捧げられたその瞬間。
その場に降りた神は、皆が思う様な存在ではなかった。聡明で強く、心優しい神だった。
神は皆の愚行に怒り、雷を降らせる。その雷は、捧げられるはずだった彼だけは傷つけることは無かった。

「貴様、私の遣いになる気はないか？」

そう言葉を掛けられた彼は、神に優しく抱えられたまま、小さく頷いた。
そして初めて、彼に正式な名が与えられた。

『光来轟喚真君（こうらいごうかんしんくん）』

『光来たりて轟きを喚ぶ』……すなわち、雷そのものであるという意味の込められた名だった。

…
……
………。

しかし、これらを彼が思い出すことは、まだない。

目覚めた時、彼はそこが自分の住む世界ではないと気づいた。
何かを追ってここに来たはずなのだが、それがなんなのか思い出せない。
どうやら記憶喪失のようだったが、事故によるものか、事件によるものか、はたまた自らそれを望む必要があったのか、何が記憶喪失の原因なのかを理解することも出来なかった。

そんな彼の目の前に居たのは、一人の娘。
可憐だがどこか世間知らずなその娘の振る舞いから、彼は無意識に安心感を覚えていた。

ーーーーー。

朝。朝食を終え、いつものように鏡を見る。
主人となった娘の手によって結ばれた首元のリボンは、今日も滅多なことでは解けそうにないような、綺麗な結び目を形作っている。
自分の姿と性別に似合わぬアマランサスピンク色のリボンに呆れ混じりのため息をひとつ吐きながら、呼び声に応えて主人の元へと向かう。

『キャスネットーク辺境伯』

気づけば、己を「キャスくん」と呼ぶその声を、酷く愛おしく思うようになっていた。

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