表の顔:両親の道具屋の手伝い
島からの脱出を目指して、日々闘っている。
いつしか自分の夢を応援してくれた両親と共に世界中のいろんな場所で歌うことを夢見ている。
暇があれば風立つ丘でひとり歌を歌っている。

両親の操り人形だった。
幼い頃から両親の叶えられなかった医者になるという夢を叶えるための駒として育てられた。
そこに私の意志などひとつもなかった。
反発すると殴られ、ご飯を抜かれ、私は操り人形になるしかなかった。

そんな最悪な日々で、私の唯一の拠り所が歌だった。
友人関係さえも制限された中でできた数少ない友人が、放課後に私をカラオケに連れて行ってくれた。
そこで友人に促されるまま、今流行りだという曲を歌わされた。
楽しかった。
歌っている間は全てを忘れられた。
私はその日、声が枯れるまで歌い続けた。
次の日から、嫌なことがあると思いっきり歌うのが習慣となった。
それによって私は、私が壊れるのを止めていた。

高校3年のある日のこと、朝起きるとふと喉に違和感を感じる。
―声が出ない。
私は焦って両親の元へ向かった。
筆談で両親に説明し、向かった病院で告げられたのは心因性の失声症。
私は絶望した。
私が壊れるのを防いでいたものが、奪われた。
それに追い打ちをかけたのが、帰宅してからの両親の言葉。
「歌などというくだらないものにかまけているからだ」
娘を心配する感情はひとつもなく、ただ失望するだけ。
その瞬間、私の中で何かが壊れた。
私はその夜、ふらふらと家を出た。
気づけば立っていたのは学校の屋上で、私はそのまま屋上から飛び降りた。

前世の記憶を取り戻したのは、6歳の時。
両親は混乱する私を優しくなだめてくれた。
落ち着いてからまず感じたのは死んだことに関するものではなく、また声が出るようになった喜びだった。
それからは私は毎日のように歌い続けた。
ずっと歌っているうちに、いつしかもっといろんな場所で歌ってみたいと思うようになった。
けれど私が生まれた地は、外に出ることを禁じられた島「エスタ島」
それでも私は、初めてできたその夢を諦めることはできなかった。
いつしかこの島を飛び出して、世界中で歌いたい。
両親はそんな私の無謀ともいえる夢を否定せずに応援してくれた。