容姿・経歴・その他メモ

とある東方の武家の家に少女あり
女、刀剣の大才を持ち父母これを喜ぶ
然れど男児これを心地よく思わず悪事を画策したり
その女、聡明でありその機敏を察する
而して彼女は旅に出る、暁起きてその意を父母に伝ふる後に国を出でて何処までも


春は曙　夏は月の夜　秋は夕暮れ　冬はつとめて
いずれも女の心を震わすには至らず
ただ一つ猛き女の心を震わせるものあり
それはとある女が奏でし"歌"なり
女はその者を"とくい"として再び旅に出る


春は曙　夏は月の夜　秋は夕暮れ　冬はつとめて
君が教ひて、我に育まれし歌の種は世の移ろひのあはれを我に教うる
人のこころの移ろひは正に徒桜の如きやうなり
されどともに眺めし色や匂ひ、千歳数えてもこの目に清らかに暉きぬべし


ある夜、女は夢をみる
己と同じ姿形をしたものが刀を振る夢なり
女、その刀に心入る
夢の中で見しその刀、現のものと思わずにはいられず


かくして女は町へと至る
春に落つる徒桜の如く、夏の月の夜に咲く蛍や花火の如く、秋を彩る紅葉の如く、冬の地を飾る新雪の如きその儚き命を燃やし己が為に刀を振るふ
己が名に刻まれた"勝"の定めを果たすため
己が名に刻まれた故郷の名を汚さぬために
今日も今日とて"秋津"は駆ける





現代版解説

とある東方の武家の家に1人の少女が生まれました。
彼女は刀剣の扱いに対し天賦の才を持っており、武士である父と母はこのことをとても喜びました。
しかしこのことをよく思っていない子もいました、それは彼女の男兄弟たちです。男であり、特に将来家を継ぐと信じていた長男はこれを快くは思いませんでした。彼は彼女の家内の地位をなんとかして貶めようと奸計を画策します。
しかし彼女は賢い人間でした。その気配を察すると彼女は旅に出ようと決意します。日が昇る前に起き、旅に出るという意志を両親に伝えたのち国を出立しました。

『春は夜明けの刻が良く、夏は月が出ている夜が良く、秋は夕暮れが良く、冬は早朝が良い（枕草子より）』とはいうけれども、彼女はこれらの良さをあまり実感することはありませんでした。
そんな時、彼女はとある少女と出逢います。
少女が奏でるその歌は猛き彼女の心を震わせ、『もののあはれ』を彼女へと教え、彼女の目に映る景色により彩りを持たせたのです（古今和歌集　仮名序　「力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の仲をも和らげ、 猛き武士の心をも慰むるは歌なり」)
そうして彼女は少女を『親友』として旅仲間に加えることとなりました。

『春は夜明けの刻が良く、夏は月が出ている夜が良く、秋は夕暮れが良く、冬は早朝が良い』
友が私へと教え、彼女の心の中に育まれた様々なものに目を向ける心は、この世界において移ろいでゆく物事の美しさを私に教えてくれたのです。
人のこころというものはすぐに散ってしまう桜の花のように儚いものです。
だとしても一緒に眺めたこの景色や一緒に味わったこの匂いは1000年もの月日が流れたとしても私の中にきっと残っているでしょう。

とある夜、彼女は夢を見ます。
それは彼女と同じ姿をし、同じ声ももつ人間が刀を持ち様々な戦いを行う夢でした。夢の中での彼女は主に3振りの刀を持ち、死線の中を潜り抜けていたのです。
彼女は夢の中で見た刀に心を奪われました。
夢から醒めた時、彼女はそこで見たあの刀が現実にも存在すると何か確信めいて思うのです。

そうして彼女はこの街へと至るのです。
春に落ちる桜の花のように、夏の夜に咲く蛍や花火のように、秋をその命で彩る紅葉のように、冬の地を美しく飾る新雪のように儚いその命をあの日見た刀のために、そして自分自身の誇りのために燃やして刀を振るっています。
自分の名前に刻まれた"勝"の意味に恥じないように(秋津はトンボの別の名でもあり、トンボは勝虫ともいう)
自分の名前に刻まれた故郷の名前に泥を塗らないように(日本の本州は秋津洲とも呼びます)
今日も今日とて彼女は奔ります。

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