エルレインの出身世界は、人類種が進退窮まった世界である。
あるゆる災厄と不幸が世を覆い、人類種はもはや今日とも明日とも知れぬ滅びを待つだけとなっている。
人心は諦観と閉塞感に満たされており、もはや信仰を糧とする神すらいなくなっていた。
エルレインはこの世界に生まれ、何者にも成れず、何事も果たせず、ただ死んだのだ。

しかしながら救いを求める心は確かにあり、それこそが人類種の滅びを辛うじてせき止める最後の砦となっている。
その「救い」を求める僅かな心が積もり重なり、この世界にも新たな神が生まれたのだ。

神の名はアカツキ。世に幸福と平穏を齎すべく生まれ落ちた新造の神であった。

アカツキは今もなお進退窮まったこの世界を救う術を演算しており、
エルレインを含めた数多の魂を使者として異世界に遣わせている。

世界が滅ぶのはどのようにして起きるのか。
世界が救われるにはどのような術があるのか。
様々なモデルケースを収集することが使者の役目であり、
エルレインもその一人として現在エリンで活動している。



だがこの収集は無意味である。
アカツキには「演算結果を出力する」権能が存在しないのだ。
つまりアカツキのしていることはただの夢想に等しい。
この世界は救われない。その結論は覆らない。
だが、だからこそ使者達は今日もアカツキの元で働く。



無駄ともわからずただ懸命に人類種を救おうとしている若き神の真心に殉じるために。
ただそのために我々は幾つも滅びを観測し、救いを観測する。
ただ我らの主の無聊を慰めるために。
その演算を終わらせないために。
けっして「気づかせない」ために。


使者達にとってはただそれだけが心の縁であり、
神の真心に報いる唯一の手段なのだ。