「決めているんです。何があっても泣かないって。」

幼き日。ルイは父親の仕事の都合で、街外れにある別荘に来ていた。
しかし、父親は遊びに来たわけではないので、ルイは別荘で留守番をしていた。
別荘にいることが退屈に感じたルイは外で遊びたいと言い、日中の外出が許された。
短い期間だったが、その中で友達が出来、一緒に遊んでいた。
「そうだルイ、お前にも秘密の場所を案内してやる！」元気な男の子がそう言うと、ルイは首を傾げる。
「秘密の場所？」
男の子はルイの手を引き、街の外れまで連れていった。
そこの壁には子供なら通ることができるほどの穴が空いていた。
「な、すげえだろ！ここから街の外に出れるんだ！外を探検しようぜ！」
ルイは驚き、男の子に言う。
「えっと...やめようよ。お父様も外に出るのは危ないって言ってたわ。」
「そんなの大人が勝手に言ってるだけだよ！ついてこいよ、街よりもずっと楽しいぜ！」
「そ、そんな...待って～！」
男の子はルイの言うことを気にせず、穴に入ってしまった。
慌てたルイもまた、それについて行ってしまった。
子供達にとって街の外は未知の世界であり、元気な男の子も、ルイも外の森、生き物、そういった世界に見とれてしまっていた。そうして小さな"探検"をしていき、日も暮れようとしていた。
「ね、ねぇ...もうそろそろ帰ろ？」
「うーん、そうだな。オヤジに怒られるのは嫌だしな！」
外で遊び、すっかり疲れ切った2人は帰ろうとする。しかし、その近くに影が通る。
「誰!?」
男の子がそう言うと、茂みから獣が出てきた。
「グルルル...」
低い唸り声をあげた獣が茂みから現れると、大きな声で吠えた。
「うわぁ！狼だ！逃げろ！」
男の子は慌てて逃げ出す。ルイもまた男の子について行こうとするが、男の子は逃げ足が速く、はぐれてしまう。
幸い、狼は飢えていたのではなく、吠えて子供達を追い返したかっただけだったようで、追いかけては来なかった。
しかし、ルイは森の中で一人取り残されてしまった。
帰り道もわからず、彷徨うことになる。

すっかり日も落ち、暗くてなにも見えない森の中、雨が降り始める。
「あ、雨...うぅ...どうしてこんなことに...」
ルイは雨宿りができる崖下に入り、
膝を抱えながら途方に暮れた。
体は疲れ切っていて、空腹や喉の渇きもある。雨で体温が奪われ、寒さで凍える。
幼いルイはそれに耐えきれず、泣いてしまった。
もうダメだと思ったとき、声が聞こえる。
教会軍の装いをした女性が一人、目の前に立っている。
「...見つけた。よかった...」

女性は水筒をルイに渡し、崖下で焚き火の支度をしていた。
森は街からそこそこ離れていて、雨が強い状態であるため、止むまで野営をする判断をしたのだ。
泣き止んだルイは、女性に言う。
「あの...ごめんなさい。私のせいで、お姉さんに迷惑をかけちゃって。」
「迷惑？ふふっ...気にしなくていいよ。」
「...お姉さんは、なんでこんな所まで、私を探しにきてくれたんですか？」
ルイは疑問を口にした。
「息を切らして走ってきた男の子が言っていたの。一緒に遊んでいた女の子とはぐれちゃって、狼に襲われてるかもって泣きながら言われたから...すぐに探しに行ったの。
でも、こうして見つけられて良かった。あなたは強い子だね。」
「...私は...強くなんか...うぅ...」
ルイはまた、涙を流し始める。
女性は困ってしまうが、しばらくするとルイの傍に寄り添い、静かに口を開く。
優しく包み込むような、子守唄。
優しい気持ちがこもった、心から安心できるメロディ。
ルイはそれを聞くと、いつの間にか涙が引っ込んでいた。
焚き火のぼんやりとした灯りと、雨音、優しい女性の体温に包まれたルイは心地よく、眠ってしまった。
「...大丈夫。あなたはやっぱり、強い子よ。」
女性がそう呟くとき、雨はもう止んでいた。
女性は眠ってしまったルイを背負い、街に向かって歩き始めた。

ルイが次に目覚めたのは別荘であり、
父親から教会軍の女性がここまで送ってくれたのだと聞き、ルイは父親に𠮟られた。
気まずい空気の中、父親はすっかり落ち込んでしまったルイの気分を良くしてあげようと思い、提案する。
「ルイはなにかやりたいことはないか？父さんにできる限りだが、叶えてやる。」
それを聞いたルイは、口を開く。
「えっと...私、歌を歌ってみたい。」