彼女の出生に関する情報は一切不明である。本人の話によると、物心がついたころには既に一人だったという。この過酷なアースランの大地でたった一人で生き延びてきたのだ。私が保護した時には言語を解さず近づくと襲い掛かってきたものだが、根気強く接すると軟化していった。その後に言語とこのアースランについてを教えた。「神」という存在からして知らなかったので大変ではあったが、妻を亡くしたこの身からすれば娘のようで愛らしかった。言語に関しては、グローヴィス様に礼を欠くことのないよう丁寧な言葉遣いを教えることにしていた。その甲斐あってか、数年する頃には立派な淑女戦士となっていた。
ある日、アルテミアは「見聞を深めたく存じます」と進言してきた。彼女が私に意見を言うのは初めてのことだ。もちろん、拒否する理由はない。少し前に来訪したアーシアンによると、「可愛い子には旅をさせよ」という諺があるらしく、それにあやかってみようというわけだ。差し当たってアルテミアには旅費と苗字を与えることにした。外の世界では苗字があった方が何かと通りがいい。私がまだ二つ名を得る前に使っていた苗字を与えると、アルテミアは嬉しそうにしていた。この日、私と彼女は本当の意味で家族になった。ああ、どうか私の愛しい娘よ、無事に帰ってきておくれ。