マジェラニカ、ここでは1日生きるだけで大変だ。
凶暴な魔獣しかり、大自然の脅威しかり、いつでも周りを気にしてないとだめ。

厄介なのは魔獣や自然だけじゃないこと。
こんな大変な環境だからね。野党やならず者がいるのも仕方ない。略奪とか人さらい、人身売買は日常茶飯事。
当然私も狙われるよね。魔術のできる子どもは高く売れるのかな。

両親がいたのはいつだっけか。
「お前がいるから狙われるんだよ」って言われて家から追い出された。当然お金なんてないよ？
前にあったおじいさんに聞いたけど私のこの力はとても貴重らしい。
追いかけられて困ってることを話したらよくわかんない黒い棒をくれた。何に使うんだろう。
それは置いといて、実際に地形を変えるってすごく便利。
樹木を生やせば食つなぐための木の実が手に入るし。追手から身を隠す洞窟を作ったこともある。
疲れたから温泉を沸かしたのはいつだっけかな。

その日の追ってはしつこかった。数も多いし。目がぎらぎらしてるし。
最初のうちはいつものことだろうと思っていた。
２日、３日、いつまでたっても終わらない。おかしいと思ったのは５日過ぎてからかな。
まだ追いかけてくるし、むしろ人数が増えてる気がする。もう放っておいてよ。
かなりきつい。そうとうやばい。
何日逃げ回ったかわからないけどその日は砂漠で満月だった。
ほんとなら砂漠の夜ってすごい寒いはずなのにそんなのも気にも留めなかった。
皓々と輝く月は私の姿を照らし逃げる場所をなくした。
「もう駄目・・・。」と思って最後の力を振り絞ったところまでは覚えてる。それからどうしたんだっけ。
目の前に砂があったかな。たぶん夜の砂漠に倒れたんだと思う。そこで視界も意識も途切れちゃった。
この時シャングリラによりあたり一面を溶岩の海に変えて追手を一掃している。

目が覚めたらきれいなお部屋にいた。
暖かくて、心地よくて、穏やかで。
お布団で寝てるの？真っ白なお洋服も着てる！
それになんだろう、なんだかいい匂いがする。食べ物だ！
そうか、わかった、ここは天国。
あんなに大変な思いしたんだから天国ではこれくらいまったりしてもいいよね。

料理が気になって扉を開けようとしたらちょうど扉が開いて入ってきた人と鉢合わせた。
「目が覚めたかね。」
上品な礼服に身を包んだ厳しそうな男の人が、でも優しく声をかけてくれた。

あったかいスープを飲みながらその人とお話をした。
その人は商談の遠征でたまたまあの砂漠の近くを通ったんだって。
砂漠の真ん中で私が倒れてたって。

近くに身寄りの居そうな集落もなかったからしばらく保護することにしたらしい。
1週間経っても目覚めなかったから仕方なく元の大陸に帰る船に一緒に乗せてくれた。

「おっとそうだ、君の持っていた黒い棒は危ないから回収させてもらったよ。
　変わりと言えるかわからないけどポメロをあげよう。お世話してあげるんだ」

しばらく生活していろいろ教えてもらった。
ここはエリンディル西方でマジェラニカとは違うこと。
街があって人々の交流が盛んで人さらいみたいな悪い人もいないこと。
私の力は錬金術に分類されるといこうと。

マジェラニカでは毎日生き抜くことがやることだったけど
ここではその必要もなくてやることもないって言ったら、
なんやかんやあって学園に通うことになった。
私の錬金術の力をエルクレストカレッジで磨いてきなさいって。
フィロソフィアスを作れるようになったら認めてくれるって。
学園ってどんなところなんだろうな。でも全然知らない人ばっかりでやっていけるかな。
不安そうな顔をしてるのがわかったのかな。その人は私にこう言った
「心配するな。学園では一人じゃない。きっと楽しいものになるだろう」

そうそう、後で知ったんだけど追手をよこしたのは両親だってさ。
人身売買で私を売り飛ばそうとしたんだって。

両親は子供がいなく、偶然にも拾ったミラを実の子のように大切に育てた。
物覚えもよく感情も安定していた。少し気になるのは背が低いことくらいか。
しかしあるとき、旅の占い師にミラがフェイであることを教えられた。
不運にもそれが周囲に広まってしまう。「あの家の子、化け物らしいよ・・・」「怖いわね、近づかないようにしましょ」
よくわからないものを怖がる集団心理により腫れ物扱いとされてしまう。
周囲の目に耐えられなくなった両親はやがてミラを突き放すようになり、
しまいにはかつての愛情もそこにはなかった。
さらに悪いことにフェイは闇オークションで高く売れるとのうわさがもたらされ
ミラの家は何かと狙われることとなった。
皮肉なことか幸いなことか両親がそのうわさを知り、ミラを売り飛ばそうと考えるのはミラが家を出てしばらくしてからのことであった