基本的に頼まれたことは何でもしている。
少しでも成果を上げるために、大きな依頼にはなるべく協力するようにし、些細なことでも手を貸している。
そのため、開拓団内の評価は高く、頼りにされている。
彼女がタイクーンの妹姫の紹介で来たことを知るのは、フルールとアリスのみである。

エリンに至るまでの一切の記憶がない
気づいた時にはダイワ群島国の忘れ去られた神社の前で眠っており、そこをたまたま通りかかったアオイ・オトハに拾われた。
アオイ・オトハは彼女が身寄りもなく、記憶もないことを知ると、度々城を抜け出し、彼女の元を訪れるようになる。
立場上、身分もないものを保護することはできず、せめてと食べ物や衣類を届け、彼女が寂しくないようにとその日あったことや、エリンに伝わる物語などを聞かせ。
アオイ・オトハの存在は、いつしか彼女にとって心の支えとなっていた。
また、立場上対等に話してくれる人がいなかったアオイ・オトハからも、立場など関係なく接してくれるスミレの存在は何物にも代えがたい大切ものとなっていた。

ある時から、アオイ・オトハは度々西方に行きたいと話すようになる。
どうやらとある旅行記を入手し、それを読んでるうちに西方に行きたくなってしまったらしい。
しかし、仮にもタイクーンの妹姫。戦乱の世となっているダイワを放って、別の地方に行くわけにはいかない。
何かいい方法はないものか…
そんな話を毎日スミレに話していた。

スミレが街に出れるようになると、いやでも今のダイワの現状が目に入ってきた。
タイクーンの求心力は低く、各地で戦が多発。
たしかに、この状態ではアオイ・オトハが西方へと行くことはできないだろう。
アオイ・オトハのは心も体も救われている。何か力になれないものか…
スミレはそんなことを考えるようになっていた。

ある日のことだ。スミレが近くの街を散策している時のこと。
彼女はとある噂を耳にする。
―エリンディル北方、沈黙の氷原を開拓せんとする者たちがいる。
沈黙の氷原。その名前はアオイ・オトハから聞いていた。
人類未踏の地。極限の環境。
神話の存在とさえ思える、巨大な鯨を打ち倒したという話まで。
これだ！
彼女の脳に天啓が下りた。

アオイ・オトハに会った際に、スミレは彼女にとあることを提案した。
「沈黙の氷原に向かう。そこで大きな成果を上げれば、それをオトハのお兄様の手柄にすれば、少しは力になれるはず」
危険だ。そこまでしなくていいと何度も止められた。それでも彼女の決意は固かった。

その意志に負けたアオイ・オトハはスミレの氷原行きを認める。
しかし、名前を貸すとなると自分一人の一存では決められない。
アオイ・オトハはそう告げると、城へと向かった。

それから、数日後。
アオイ・オトハは数日にも及ぶ現タイクーン「アオイ・カゲユキ」との口論の末、彼を説得。
あまりにガバガバすぎる作戦にツッコミは山ほど入れられたが。
元々、オオドとしてもいつか開拓団へはだれかを向かわせなければならないと思っていたらしい。
オトハがそれほど信用できる人物なのであれば…と。元々、アオイ・オトハは人を見る目があり、彼女が信用する人物はみな、優秀だ。
数週間、オオド城で暮らし、信用たるもの。調査員として優秀であることを確認できれば許可するとのことだ。

レムレスとしての隠密能力に加え、神社で暮らしていた時に身に着けたニンジャの技、さらには人の感情の機微を察する能力も高い。開拓団へ向う者として申し分ない。
それがオオド城での暮らしでアオイ・カゲユキから下された評価だった。
定期的にアオイ・カゲユキの元へ報告を送ること。
アオイ・オトハの紹介で来たことは開拓団の代表以外には伏せること。
定期的にアオイ・オトハに顔を見せに来ること。
それを条件とし、スミレはオオドの調査員として、開拓団に向かうことを認められた。

すべてはアオイ・オトハから受けた恩を返すため。

アオイ・オトハの名で書かれた手紙を大切に持ち、オトギ・スミレは氷原へと向かった。
入団のための試練は難なく突破。
彼女は団長補佐のフルールと面会することとなる。
代表の人に渡してほしい。
そう言われて渡された手紙を、フルールに手渡す。

手紙を読んだフルールは、その手紙に書かれた名前を見て天を仰いだ。